第150話大伴旅人卿の和せし歌

大納言大伴旅人卿の和せし歌二首


ここにありて 筑紫やいづち 白雲の たなびく山の 方にありけり

                         (巻4-574)


草香江の 入江にあさる 蘆鶴の あなたづたづし 友なしにして

                         (巻4-575)


大納言大伴旅人卿が、沙弥満誓に返した歌二首


ここの大和から、筑紫はどの方角であろうか。

白雲がたなびく山の方角なのだろう。


私は、草香江の入江で、餌をあさる蘆鶴と同じで、実に心細い、貴方のような友がいないので。



大伴旅人氏が、大納言となり大和の都に帰京後の作。

太宰府滞在時の親しき友を懐かしみ、大宰府のある筑紫の方角は、きっと白雲がたなびく西の山の方角なのだろうと、眺め続ける。



※「たづたづし」:「心細い様」のこと。

「鶴(たづ)」の「たづ」の響きから「たづたづし」にかけて詠んでいる


また、自分の心は、草香江でひっそりと餌をあさる蘆鶴と同じ。

貴方が一緒にいないので、心細く寂しくて仕方が無いと嘆く。

尚、草香江は難波にもあり、大宰府付近(現福岡市の大濠公園あたり)にもある。

あるいは、同名である両方の草香江を意識しているかもしれない。


出世して都に戻ったところで、尊敬していた長屋王は冤罪に巻き込まれて死んでいる。

そして、心を通じ合った友は、大宰府にいて、言葉を直接交わすことはできない。

だから、せめて友のいる方角を眺める。

しかし、やはり実に心細い、入江で餌をひっそりとあさる蘆鶴と同じだ。


二首とも情感と情景が、巧みに詠みこまれた名歌と思う。

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