第131話 藤原麻呂と大伴郎女の贈答歌

京職藤原大夫の、大伴郎女に贈りし歌三首

娘子らが 玉くしげなる 玉櫛の 神さびけむも 妹に逢わずあれば

                          (巻4-522)

よく渡る 人は年にも ありといふを 何時の間にそも 我が恋ひける

                          (巻4-523)

蒸し衾 なごやが下に 臥せれども 妹とし寝ねば 肌し寒しも

                          (巻4-524)


大伴郎女の和せし歌四首

佐保川の 小石踏み渡り ぬばたまの 黒馬の来る夜は 年にもあらぬか

                          (巻4-525)

千鳥鳴く 佐保の川瀬の さざれ波 やむ時もなし 我が恋ふらくは

                          (巻4-526)

来むと言ふも 来ぬ時あるを 来じと言ふを 来むとは待たじ 来じと言ふものを

                          (巻4-527)

千鳥鳴く 佐保の川門の 瀬を広み 打橋渡す 汝が来と思へば

                          (巻4-528)


京職(都を治める職)の大夫(長官)、藤原麻呂(不比等の第四子)が、大伴郎女に贈った歌三首


娘さんたちが、きれいな櫛箱にしまってある櫛と同じで、私も古びてしまったことでしょうね、貴方に全く逢えずにいるので


長い年月を辛抱強く過ごせる人は、一年でも逢わずにいると言うけれど、何時の間にか、私は辛抱しきれず、恋しくて仕方がない


カラムシの柔らかな夜具に包まれて寝ているけれど、貴方と寝ているわけではないので、肌寒くて仕方がない。


大伴郎女が答えた歌四首

佐保川の小石を踏み渡って黒馬の来る夜が、一年中あればいいのに


千鳥がよく鳴いている佐保川の川瀬のさざ波と同じで、私の貴方への恋心は途絶えることはありません


貴方は来ると言っても来ない時があるのに、来ないと言うのを来ると思って待ちませんよ、そもそも来ないと言うんだから


千鳥がよく鳴いている佐保川の渡り場の瀬が広いようですね、板の橋を渡しましょう、そうすれば貴方が来ると思うので



最高実力者だった藤原不比等の第四子にして、京職大夫なので、現代で言えば都知事の藤原麻呂と、佐保大納言大伴安麻呂卿の娘の贈答歌になる。

大伴郎女は、当初穂積皇子に嫁ぎ、深く寵愛を受けたけれど、穂積皇子が亡くなり、その後藤原麻呂から求婚された。

今をときめく藤原家の御曹司から求婚された大伴郎女も、悪くは思っていない様子が、歌にあふれている。

特に、郎女の第三首目(巻4-527)は、同語反復で、ほぼ戯れ歌。

冗談を交わせるほどの、親しい関係だったようだ。

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