第120話 しきたへの枕ゆくくる涙にそ

駿河采女の歌一首

しきたへの 枕ゆくくる涙にそ 浮き寝をしける 恋の繁きに

                       (巻4-507)


枕にあふれ出る涙が多くて、浮き寝をしてしまいました。

貴方を想う恋心も、それほど強く辛いのです。


駿河采女は、駿河国から宮廷に貢進された女性。

相手が誰とはわからないけれど、涙の多さで枕が浮くほどの激しい恋なのだろう。

帝なのか、あるいは禁断である別の男性なのだろうか。

叶わぬ恋に、身を焦がす。

采女は、各国から選ばれた輝くような美しく教養のある女性ばかり。

その中で、自分が帝の夜伽に選ばれるなど、実に難しいのかもしれない。

現実には帝だけが男性ではない。

禁断であろうと、恋心は生じてしまう。

しかし、そんな簡単に逢瀬など、できやしない。

どれほど美人で教養があっても、采女には恋愛の自由がない。


選ばれる名誉の裏には、残酷な環境がある。


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