第103話 太宰師大伴卿の故人を思ひ恋ひし歌

神亀五年戊辰、太宰師大伴卿の故人を思ひ恋ひし歌 三首

愛しき 人のまきてし しきたへの 我が手枕を まく人あらめや

                         (巻3-438)

帰るべく 時はなりけり 都にて 誰が手本をか 我が枕かむ

                         (巻3-439)

都なる 荒れたる家に ひとり寝ば 旅にまさりて 苦しかるべし

                         (巻3-440)


愛しい妻が枕とした私の手枕を、再び枕とする人が、他にあるだろうか。


都に帰る時となったけれど、都に戻って、誰の腕を枕にできるというのか。


都の荒れた屋敷で一人寝をするなど、旅寝よりも、辛く苦しいだろう。



太宰師大伴旅人の妻は、都から大宰府に到着後(神亀5年夏:718年)まもなく病死したという。

一首目の歌は、死別後、数十日経ってから詠まれた。


二首目、三首目は、天平2年(720)12月、帰京の時期が近付いた時の作。


いずれにせよ、最愛の妻を失った悲しみに満ちている。

ここまで愛された妻も、冥途で涙しているかもしれない。





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