第96話 一日には千重波しきに

大伴宿祢駿河麻呂の歌一首

一日には 千重波しきに 思へども なぞその玉の 手に巻きがたき

                          (巻3-409)


一日中、千重の波のように、何度も想いをかけるのだけど、どうしてあの玉を自分の手に巻くことができないのだろうか。


玉は、意中の女性。

一日中、恋い焦がれているけれど、意中の女性からは、全く見向きもされないのだろうか。

叶わぬ恋だから燃えるということもあるけれど、まあ、しかたがない。


「なぞその玉の 手に巻きがたき」

自分に魅力がないのだろうかとも、何度も悩むかもしれない。

または、自分より良い相手が実はいるのかもしれないかと、不安に思う。


そんなことを思いながら、その上、相手にその気がなければ、悶々としつづける他はない。

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