第38話 柿本人麻呂 淡路の野島の先の

柿本朝臣人麻呂の羇旅の歌から


淡路の 野島の先の 浜風に 妹が結びし 紐吹き返す

                                (巻3-251)

淡路の野島の先の浜風が、家で妻が結んでくれた旅衣の紐を、吹き流している。


旅立ちの時に、男の装束の結び紐を、妻が旅の安泰を祈って結ぶのが、この時代の風習だった。

つまり、旅衣の結び紐は、妻の思いの籠ったものであり、旅をする男にとっては、自分を待ち続ける、自分も早く戻って顔を見たいと思う、妻を偲ぶ対象となる。



浜風にたなびく衣の紐は、吹かれるがまま。

紐が揺れるたびに、妻のことを思い出す。

ただ、異郷の地。

紐が自然にほどけてしまった場合は、不吉とされた。


普通に読んでいくと、さわやかさを感じる海の歌で、家で待つ妻を偲ぶ歌。

ただ、その風が強くなり、紐がほどけるようになれば、それは不吉の兆し。

旅路の緊張感も、深く詠みこまれている歌と思う。


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