第35話 柿本人麻呂 石の中の死人に哀しむ(2)
反歌二首
妻もあらば 摘みて食げまし 沙弥の山 野の上のうわぎ 過ぎにけらずや
(巻2-221)
沖つ波 来寄る荒磯を しきたへの 枕とまきて 寝せる君かも
(巻2-222)
あなたが妻と一緒であったなら、お二人で摘んで食べたでしょうけれど、沙弥(狭岑)の山の野の上のうはぎ(嫁菜)は、盛りも過ぎてしまいましたね。
沖からの波が押し寄せ、叩きつけて来る荒磯を、枕にして あなたは眠っておられるのです。
いずれも、妻に看取られることがなく、孤独に死を迎えた死者を哀しむ歌。
あなたは、もう、愛する妻と一緒に、うはぎ(嫁菜)を摘んで食べること(時期)も、過ぎてしまいましたね(そんなことが出来なくなってしまいましたね)。
こんなゴツゴツとした荒磯を枕にして眠っている(死んでいる)あなたに聞こえるのは、沖から押し寄せ、たたきつける波の音だけ(あなたの愛する、あなたを愛する妻の声ではない)。
誰にも看取られず、誰からも放置されたままの、行き倒れの死体。
いろんな想いを抱えて、死んでいっただろう。
せめて、言葉をかけてあげよう、語り掛けてあげよう。
それを、この哀しい死者の、死出の旅への手向けとしよう。
人麻呂の哀悼は深い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます