第35話 柿本人麻呂 石の中の死人に哀しむ(2)

反歌二首

妻もあらば 摘みて食げまし 沙弥の山 野の上のうわぎ 過ぎにけらずや

                                (巻2-221)

沖つ波 来寄る荒磯を しきたへの 枕とまきて 寝せる君かも

                                (巻2-222)


あなたが妻と一緒であったなら、お二人で摘んで食べたでしょうけれど、沙弥(狭岑)の山の野の上のうはぎ(嫁菜)は、盛りも過ぎてしまいましたね。


沖からの波が押し寄せ、叩きつけて来る荒磯を、枕にして あなたは眠っておられるのです。


いずれも、妻に看取られることがなく、孤独に死を迎えた死者を哀しむ歌。


あなたは、もう、愛する妻と一緒に、うはぎ(嫁菜)を摘んで食べること(時期)も、過ぎてしまいましたね(そんなことが出来なくなってしまいましたね)。


こんなゴツゴツとした荒磯を枕にして眠っている(死んでいる)あなたに聞こえるのは、沖から押し寄せ、たたきつける波の音だけ(あなたの愛する、あなたを愛する妻の声ではない)。



誰にも看取られず、誰からも放置されたままの、行き倒れの死体。

いろんな想いを抱えて、死んでいっただろう。


せめて、言葉をかけてあげよう、語り掛けてあげよう。

それを、この哀しい死者の、死出の旅への手向けとしよう。


人麻呂の哀悼は深い。

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