第31話 柿本人麻呂 泣血哀働歌(5)

家に来て わが屋を見れば 玉床たまどこの ほかに向きけり 妹が木枕こまくら

                                (巻2-216)


家に戻って来て、我が家を見ると、寝床の妻の木枕が、外を向いている。

玉床たまどこ:寝床の美称。


寂しいだけの墓参から帰ってきて、妻と共寝した寝床を見ると、妻の木枕はあらぬ方向を向いている。

家に戻っても、妻は自分を向いてはくれないのか。

たかが枕の向きというだけではない。

人麻呂の寂しさは、家に戻っても、より増すことになる。

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