第18話 女性の髪上げ
たけばぬれ たかねば長き 妹が髪 このころ見ぬに 掻きいれつらむか 三方
(巻2-123)
人皆は 今は長しと たけと言へど 君が見し 髪乱れたりとも 娘子
(巻2-124)
橘の 陰踏む道の
(巻2-125)
三方沙弥が園臣生羽の娘を娶り、すぐに病に臥してしまった時に作った歌三首
束ねるとほどけ、束ねないと長いあなたの髪は、このごろ見ていないけれど、櫛で掻きあげたのでしょうか
他人は皆、もう長くなったから、束ねなさいというけれど、あなたがご覧になった髪です。たとえ乱れていようと、そのままです。
橘の木陰を踏む道が、八方に分かれるように、あれこれと物思いをしています。
愛しい貴方に逢えないので。
※三方沙弥、園臣生羽の娘は伝未詳。
※男女とも、8歳ぐらいまでは、ウナイという髪型で、髪はうなじのあたりで切りそろえ、その後15、6歳までは髪を伸ばし、女子は振り分け髪にした。
これはハナリあるいはハナリの髪といい、一人前になって髪上げとなった。
沙弥の妻となった娘子の年齢は、ちょうどそのころで、沙弥は上げるには少々短かった娘子の髪を思いおこして「掻き入つらむか」と、安否を尋ねたのだと思う。
尚、髪上げは成人のしるしで、婚姻の時を迎えたしるしだった。
※
三方沙弥は園臣生羽の娘と結婚の約束を交わしたけれど、自分自身が病に臥してしまって、通えなくなってしまった。
結婚の約束をした時は、短くて髪を束ねられなかったけれど、今はどうなったのですか、髪上げをなさったのですか(つまり他の男と話がまとまってしまったのか?)と不安を呼びかける。
それに対し、園臣生羽の娘は、他人は長くなった髪を束ねなさい(来ない人より、来てくれる他の人と結婚しなさい)というけれど、私のあなたへの気持ちは変わりません、あなたが見た通り、乱れていても何も気にしません。
三方沙弥は、その返歌を読み、本当に安心したのだろう。
「病に伏してあなたに逢えないでいるので、あれこれと物思いしてしまった」と自身の気弱な心を恥じるとともに娘が変わらぬ愛を誓ってくれたことへの感謝の気持ちを、素直に読んでいる。
おそらく、本当に好きあった仲だったのだろう。
病に臥し気弱になった夫を、妻は健気に貴方を好きだから、髪もあげずに、そのままで待ちますと慰めている。
三方沙弥の安心した心が、実に素直に三首目に詠みこまれている。
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