第16話 但馬皇女の穂積皇子への熱い想い
秋の田の 穂向きの寄れる 片寄りに 君に寄りなな
(巻2-114)
穂積皇子を
後れ居て 恋ひつつあらずば 追ひしかむ 道の
(巻2-115)
但馬皇女の、高市皇子の宮に在りし時に、ひそかに穂積皇子に
(巻2-116)
※高市皇子、穂積皇子、但馬皇女は、天武天皇を父とする異母の兄弟妹。
但馬皇女は当初、天武天皇の長男で年の離れた高市皇子と同居したけれど、後に思いを寄せていた穂積皇子と結ばれた。
尚、異母であれば、結婚は認められていた。(同母は禁忌)
但馬皇女が高市皇子の宮にいた時に、穂積皇子を想い、お作りになった歌一首。
秋の田の、実りを迎えた稲穂が片方になびくように、あなたになびきたいのです、人の噂がうるさくとも。
勅命により、穂積皇子を近江の志賀の山寺に遣わした時に、但馬皇女のお作りになった歌一首。
後に残されて恋しくて仕方がないのなら、あなたの後を追って、追いつきたく思います。道のまがり目ごとに、印をつけておいてください、愛しいあなた。
但馬皇女が、高市皇子の宮にいた時に、秘かに男女関係となり、そのことが形として顕われてしまった時に、お作りになった歌一首。
人の噂や言葉がうるさくて痛くてなりません。まだ渡ったことがありませんが、朝川を渡ります。
但馬皇女は、穂積皇子が好きで好きで仕方がなかった。
とにかく一緒に寄り添っていたい。
勅命で穂積皇子が志賀に行くとならば、追いかけたいから、山道に迷わないように「しるし」をつけておいてと、お願いをする。
当初の夫、高市皇子の宮で、秘かに穂積皇子と情を交わし、それが「形」に洗われてしまう。
感づかれ、噂や他人の視線が痛くてしかたがない。
人目を忍んで、朝の川を渡るという。
夜明けに高市皇子の宮を脱出、穂積皇子のもとへ、走ったのだと思う。
男性が女性のもとに通う妻問いではない。
「形」が現れ、但馬皇女は、穂積皇子に突き進むのみ。
「積極的」「皇女の気迫」など、いろいろ表現はあるけれど、それだけではない。
「形」とは、ただ露見しただけなのか。
あるいは、「新しい命」が宿っていたのか。
尚、但馬皇女は和銅元年(708)6月25日に亡くなり、吉穏の猪養の丘に葬られた。
吉陰は奈良県桜井市、西は初瀬、東は墨坂、大和の境の地。
いずれにせよ、都から相当外れた山に葬られた。
但馬皇女の薨じて後に、穂積皇子の、冬の日雪降るに、遥かに御墓を望みて、悲傷流涕して御作りたまひし歌一首
降る雪は あはなに降りそ 吉穏の 猪養の岡の 寒からまくに
(巻2-203)
但馬皇女が亡くなってから、穂積皇子が冬の雪の降る日に、はるか遠くの御墓を望み、悲しみに涙を流し、お作りになった歌一首。
降る雪よ、それほど沢山降らないで欲しい
吉穏の猪養の岡が寒いだろうから
穂積皇子は但馬皇女が寒がるだろうから、それほど雪を降らさないで欲しいと、降る雪に呼びかけ、墓に眠る但馬皇女の身を案じている。
哀しいまでの但馬皇女の慕情と、人の命のはかなさ。
悲恋物語、それだけでは言い尽くせない哀しさがある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます