第14話 大津皇子、石川郎女、草壁皇子の三角関係
大津皇子の、石川
あしひきの 山のしづくに 妹待つと われ立ち濡れぬ 山のしづくに
(巻2-107)
石川郎女の和し奉りし歌一首
我を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしづくに ならましものを
(巻2-108)
大津皇子のひそかに石川女郎を
大船の 津守が占に
(巻2-109)
大名児を
(巻2-110)
大津皇子が石川郎女に贈った歌一首。
山のしずくに、あなたを待ち続けて、立ち濡れてしまいました、山のしずくに。
石川郎女の返歌一首。
私を待ってあなたが濡れたという、山のしずくに、私はなりたかった。
大津皇子が秘かに石川女郎と男女の関係になった時に、津守連通がその事実を占により、露した時に、皇子が御作りになった歌一首。(事情ははっきりしていない)
津守の占で知られてしまうなど、承知の上で私たちは二人寝をしたのだ。
日並皇子尊が石川女郎に贈り与えられた御歌一首。(女郎は字を大名児という)
大名児を、向こうの野原に刈る草の、一束の間も、私は忘れることができるのだろうか。
※あしひき:山にかかる枕詞。
※石川郎女は日並皇子尊(草壁皇子:皇太子)の愛する女性でもあった。
石川郎女が石川女郎に変わっているけれど、理由は不明。
※束の間:握った拳の長さで、短い時間の意味。
さて、男が女のところに通うのが、当時の恋愛形態。
ところが、大津皇子は山中、石川郎女を待ち続け、しずくに立ち濡れてしまったと歌う。「山のしずくに」が繰り返されていることから、よほど待ち続け、濡れてしまったのだろうか。
その大津皇子の嘆きのような御歌に対する石川郎女。
私も、山のしずくになりたかったと、歌う。
つまり、「密会」の約束をしていたけれど、かなわなかった。
何故、「密会」だったのだろうか、やはり草壁皇太子の目を盗む必要があったのだろうか。
大津皇子は、この時には、石川郎女に逢えなかったのだと思う。
さて、津守連通は、陰陽道の名手、占の専門家で、大津皇子と石川郎女の男女関係を占い、当ててしまった。
しかし、大津皇子は、まったく動じない。
そんな占でわかってしまうなど、わかりきっている、それでも愛を貫き、二人寝したんだと、歌う。
草壁皇太子の愛する人と男女関係を持ち、発覚しても、全く悪びれない、大津皇子の強さがよくわかる歌。
もう一人、石川郎女に恋する男の草壁皇太子は、
大名児を、ほんの少しの間でも、忘れられない、思い続けている、と歌う。
確かにやさしい心だと思う。
しかし、大津皇子のような、力強さは感じない。
この、草壁皇太子の歌に対する石川女郎の返歌は万葉集には、おさめられていない。石川女郎の気持ちが草壁皇子にはなかったのだろうか。
強き大津皇子が草壁皇太子の実母持統天皇により謀反の罪を課せられ、死を賜る。
それによって、草壁皇太子が安心して天皇位につくはずのところ、病弱により夭折してしまう。
残された石川郎女は、どんな生涯を送ったのだろうか。
古代史は、複雑な哀惜に満ちている。
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