第12話 天武天皇vs藤原夫人

天皇の、藤原夫人に賜ひし御歌一首


わが里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 降らまくは後 

                          (巻2-103)


藤原夫人の和し奉りし歌一首


わが岡の おかみに言ひて ふらしめし 雪のくだけし そこに散りけむ

                           (巻2-104)



天智天皇が藤原夫人に与えた歌一首。

私のいる里には、大雪が降っているよ。

あなたがいる古ぼけた大原の里に降るのは、この後になるよ。


藤原夫人が応えた歌一首。

私のいる大原の岡の水神様に命じて降らせた雪のかけらが、そちらに散っていったのですよ。


※藤原夫人:天武天皇の後宮に仕える人で、天皇の妻。藤原鎌足の娘、五百重娘。

※天皇の妻は、令制では、皇后が一人、妃が二人、夫人が三人、嬪が四人。

※明日香大原:藤原氏の本拠の地。鎌足の生母大伴夫人の墓があり、その上の大原神社の付近は、鎌足出生の地との伝承がある。


さて、天武天皇がいる明日香浄御原宮と明日香の大原岡との距離は1㌔と離れていない。

つまり、天武天皇は、自分のいる明日香浄御原宮では、それほどの雪が降っていないのにも関わらず、大雪と言い、「古びた田舎の大原では大雪が降るのは後になるよ」と、からかっている。


その天武天皇の「からかい」に、藤原夫人は、即時に返歌。

「こっちのほうが、こっちの水神様に命じて降らせた、はるかに見事な大雪、そのカケラがそっちに飛んだのです」

一歩も引いていないというよりは、「からかい」には負けず、やり込めている。


藤原夫人の「鮮やかな逆転勝ち」と言ったところだろうか。



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