第7話 草まくら旅行く君と知らませば

長皇子ながのみこの御歌


あられ打つ 安良礼あられ 松原住吉うみのえの 乙日おとひ娘子をとめと 見れど飽かぬかも


長皇子の御歌


安良礼あられ 松原は、住吉の乙日おとひ娘子をとめと一緒で、いくら見ていても飽きることはない。

あられ打つは、「安良礼あられ 松原」を導く枕詞。

乙日おとひ娘子をとめは、住吉港の遊女か、あるいは皇子を接待した当地の有力者の娘なのか、諸説あり、未詳。


長皇子は、風光明媚な安良礼あられ 松原と、土地の娘子を並べて讃えている。

ここも、ずっと見ていたい素晴らしい風景であるけれど、娘さん、あなたも、それと同じ、素晴らしく可愛らしい、ずっと見ていたいと甘い言葉をかける。


それに対して、当の住吉の娘子


草まくら 旅行く君と 知らませば 岸の埴生はにふに にほほさましを


清江すみのえ娘子をとめ長皇子ながのみこたてまつりしものなり 姓氏未だつまびらかならず 

                         (巻1-69)

 

旅をするお方と知っていたのなら 住吉の岸の黄土で お染めしてさしあげたのに。


清江すみのえ娘子をとめは、「一夜限りのお方と知っていたならば、もっと心を込めて接してあげたかった」という気持ちを、「この住吉の埴土で衣を染めて差し上げたかった」と、雅やかに、別れの哀しみを歌う。


※住吉の埴土は、赤や黄の顔料として、有名だった。



貴人と、港の有力者の娘の一夜限りの熱い交情だったのだろうか。

遊び慣れた貴人と、遊び客を扱いなれた遊女の、お決まりの言葉のやり取りなのだろうか。


さて、受け取り方は、それぞれ。

今さら、真実を確かめるのも、野暮な話になる。


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