第6話 大伴の御津の浜なる忘れ貝

大伴の 御津みつの浜なる 忘れ貝 家なる妹を 忘れて思へや


                     身人部王 (巻1-68)


大伴の御津の浜にある忘れ貝 その名前のように 家で待つ妻を思い忘れることなどあるのだろうか。


これは旅に出ている夫の、家に残る妻への思いを詠んだ歌。

旅の寂しさから、詠んだのだろうか。


※大伴の:御津の浜の枕詞

「忘れ貝」は、二枚貝の片割れだけが、浜辺に残っている状態。

つまり、相手から、忘れられ、捨てられ、残っている状態。

「忘れ貝」を拾って、恋そのものを、忘れたいと歌う事もあるけれど、この歌は逆に忘れないと歌う。

旅先にあって、浜辺で片割れの貝を見たのだと思う。

それを不吉に思ったのか。

途端に、妻が恋しくなってしまったのかもしれない。

片割れにはしたくないし、なりたくもない。

だから、忘れ貝を懸命に否定する。


美しい浜辺の中、忘れ貝を拾い、妻を想い、たたずむ一人の男。

絵のような、情感あふれる姿が見えてくる。

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