第3話 額田王、近江天皇を思ひて作る歌他一首

〇額田王、近江天皇を思ひて作る歌


君待つと 我恋ひ居れば 我やどの 簾動かし 秋の風吹く

(巻4-488、8-1606:重出歌)


額田王が近江天皇(天智天皇)を思い作った歌。


あなたのおいでをお待ちして 恋しい思いをしているけれど 

家の簾を動かすのは 秋の風が吹いているから


簾が動くのはあなた(近江天皇=天智天皇)の訪れではなく、秋の風のため。

じっと訪れを待つだけの辛さ、寂しさを歌う。

秋に「飽きられた」の意味を掛けたのかもしれない。




〇天智天皇の大殯おおあらきの時の歌


かからむと かねて知りせば 大御船おおみふね はてしとまりしめ結はましを

         ( 2-151)


天智天皇の大殯おおあらきの時に詠んだ歌。

大殯おおあらき:本葬の前に遺体を仮安置すること。


こんなことになることを あらかじめ知っていたのなら 大君の御船のお泊りになる港に 標縄を張っておいたものを


船が港を出ることを、「死」の暗喩としている。

天皇が本当に死ぬ、それがわかっていたならば、その前に天皇の船が港を出ないように、標縄を張り、留めておいたのに、と悔やむ。


愛する人に、いつまでも生きていて欲しい、それは全ての人に共通する想いだと思う。

しかし、「死」は、生きている以上、避けられない。

そして、愛する人が死んでしまってから、あれこれと悔やむ。

あの時、あのようにしておけばよかった、なぜ、そのようにしなかったのか。

この悔やみ、辛さは、いつの世に生きる人であっても、変わることはない。

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