最終章 ひとつ



自首をすると言って深海が立ち上がる、


理解ができない、というか、訳がわからない。


「多分警察がまだその辺の聞き込みをしてる、警察が居なくなったから僕はもう帰るから、」


理解も追いつかないまま勝手に深海はもう帰ろうとしている、


どうしていいかもわからず深海の腕を掴んだ、


「待って、行かないで、、いいじゃん、バレてないじゃん、自首なんておかしいじゃん」


「ごめん、僕の詰めが甘かった、バレてからじゃ遅いから、これ以上迷惑かけないようにしないと、」


自分でもわかることはある、わかった上で目を逸らそうとしている、もうここまでくればどうしようもないことは、でもだからといって深海が私の代わりに自首するなんておかしいんだ、それだけはハッキリわかる、迷惑かけてるのはどっちだよ、こっちだろう、



「そんなことしなくていいから」



結局私は待つことしかできないのに、どうすることもできず、捕まるのを待つだけで自分が自首するような勇気も持ち合わせていなかった、もしかしたらバレずに済むかもしれないという期待を無理矢理心の中に作り込んでこの場をやり過ごそうとしていた。


でも私が何もしなければ何も行動しなければ深海が先に行ってしまう、深海が殺人犯にされて、深海が刑務所に入れられてしまう、



嫌だ、深海と居たい、深海がいなくなるなんて嫌だ、私と同じ世界に居れるのは深海だけだ、もう元の世界には戻れない、だから深海とこのまま、ずっと一緒に、


「地獄に、、、地獄に落ちるから、私は、」


「_______え?」


深海の腕を掴んだ、そして深海の言葉を思い出したのだ。


「私は人を殺したから地獄に落ちる、その時はアンタも一緒に落ちるって、そう言ったよね?」



「_______あれは、なんかその、」



「だからもう行っちゃおうよ、」


深海はまた黙ってしまった、でも深海はついてきてくれるとわかっていた、


それでいい、これが1番いい、多分もう私はこの世では生きていけないから、


引き出しから封筒を取り出して、中のお金を数えた、二人分の旅行代、どうせ片道だけの旅行だしそこまで必要ではない、銀行から今月のバイト代を引き出せば十分だ、


「旅行行こう、」


最後の旅行だ、短い間ではあったが深海との最後の思い出づくりだ。



とても旅行に行くとは思えないような荷物と服装で、財布とスマホだけを持って二人で家を出た、


警察はもういなくなっていた、駅に向かう、スマホの地図アプリを見ながらいつもの電車から乗ったことのない電車に乗り換えて、行ったことのない街で降りる、そんなことを繰り返して数時間、


なるべく遠いところに行きたかった、私や私の周りの人が一度も行ったことがないところ、懐かしい匂いの一つもしないところ、


「君はいいの?」


移動中に深海が聞いてきた、


「あぁ、もういいんだ、もうこんな状態でこの世にしがみつくくらいならさっさと行っちゃった方がいいかな、アンタは?」


正直私の方が1番聞きたかったことだった。




「もうとっくに怖い感情はないから、何度も行こうとしたから、その度にこれで必死に足止めしてたんだ。」


深海はズボンのポケット越しに中のカッターナイフを握りしめた。



脳裏に深海の腕の線が浮き上がる。



「今さ、楽しい?」


話題を変えたくなって咄嗟に頭に浮かんだしょうもない質問を投げてしまう、


「・・・うん、楽しいよ。」


少し間があった、


楽しいわけないか、


心の中で呟いた。


正直私は楽しかった、この数日間、日常の中の異常を味わえた気がしたからだ、


だからこそ、このまま終わらせたいのだ、もうここからは落ちていく未来しか見えないから。



随分と遠くに来た、もうどこを見ても私の知らない世界だけが見える、


昼頃に出発したが辺りはもう薄暗い、


バスに乗って約1時間、こんなに長くバスに乗ったのは初めてだ、




バス停から少し歩くと地図検索で見たとおりの滝が流れる崖に着く。



「結構時間かかったね、お金も意外と余ったなぁ、もっと観光とかもできたかも」


これから死ぬというのに私はなるべく明るい口調で喋る。


「もうあんまり楽しまない方がいい気がする。生きたくなっちゃうから」


それもそうだ、もう生きる希望を見出したくはない。




「あのさ、」


深海が何か言い出した、何も言わずに深海の方に顔を向ける。


「あ、いいや、なんでもない。」


「なんだよ、もうなんでも言いなよ、今更なんだって言えばいいじゃん、」


少しの時間をおいて、深海は目も合わさず話し出す。


「・・・ずっと言おうかどうか迷ってて、もうここまできちゃって、ごめん、、別に今更いう必要もないことだと思うんだけど、

君はずっと僕のことをストーカーだと思ってたみたいだけどそれは違う」


「え?どうゆうこと?」


「あの日、君が人を殺した日、僕があそこにいたのはただの偶然、たまたま、少し買い物に行ってたんだけど急な嵐が来たから買い物せず途中で帰ってたところだった。」


心臓がドッとなる。


「・・・嘘でしょ、そんな、じゃあなんで私のこと」


「変だよね、どうしたらいいかわからなかったんだけど、僕はね、誰かの力になりたかった、誰かに協力して、頼られるような、そんな存在になりたくて、君に力を貸したんだ。今まで誰からも嫌われてきたから、それで考えるより先に多分体が動いたというか、」


頭で処理するにはまだ時間がいる事だった、また理解のできない穴にはまってしまった。


「あ、でも昨日は君についていったから昨日からはストーカーだったかな、あのガラの悪い人に絡まれちゃった時、、昨日は君が心配だったから」


全ては勝手な私の決めつけだった。勘違いして調子に乗って、深海を散々巻き込んでしまった。


「だから嬉しかった、君が僕を必要としてくれた時、ここにいて欲しいって言ってくれた時、僕は生きてる気がした、自分が居てもいい場所を見つけられた。」



「私で良かったの?」


「君が良かった、君じゃなきゃダメだった」



恥ずかしさと悔しさと嬉しさとよくわからない感情が同時に込み上げ、頭がパンクしそうになる。


「最後にひとつだけ、いいかな?」


「ん?」


「名前で呼んでくれないかな、悠馬、」


「うん、行こうか、美咲、」


悠馬が手を差し出してくれた。


私達は手を繋ぎ崖の端に立つ



「ありがとう」


二人で揃って空中に飛び降りる


落ちる、落ちる、墜ちる、









「また地獄で、」

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地獄の果てまで クオンクオン @kuonkuon

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