第六章 解離
朝が来た。
そうだ、昨日は深海と一緒に寝たんだ、だが隣に深海の姿は無かった、
「あ、ごめん、」
声がした方に体を転がすと深海がすでに起きていて少し遠くから私を見ていた、
時計をみると小さな針が丁度4を指している、まだこんな朝か、そう思うと急に眠気が襲ってきた。
「もう帰るの?」
意識もはっきりしない声で深海に聞いた、
「大丈夫」
その大丈夫はどうゆう意味の大丈夫かよくわからなかったため、私は続けた
「そんなに急がなくてもいいよ、今日休みじゃん、親も夜までは帰ってこないから」
「うん、」
出来るだけ深海に隣にいて欲しかった、もう少し寝ていたい、でもとりあえず体を起こして、着替えなどを済まし、コンビニに行って朝ごはんを買うことにした、二人で外出するのも人の少ない早朝の方が都合がいい、
朝の冷気が頬を撫でると一気にに眼が覚めた
特に会話もせず、それぞれで買い物をした、私はパンを買って、深海はおにぎりを買っていた、
家に帰って、二人で朝ごはんを食べた、相変わらずの沈黙だった、
朝ごはんを食べ終わってしまえば、深海が此処に居座る理由もなくなってしまう、
「私を守りたいって言ったよね」
「うん、」
「じゃあせめてもう少し此処にいてよ、親が帰ってくる前には帰らすから」
自分でもだいぶ無理のある口実だと思った
「うん、わかった、ありがとう」
何故かこっちが感謝された、よくわからない、先にありがとうと言われてしまい、返す言葉に困って何も言葉を返すことができなかった、
なんとなくわかっていた、彼の行動には予測がつかないが、私のお願いというかもはや命令には必ず従ってくれる、彼を利用しているようで罪悪感があるがその責任はしっかりととる気でいた、むしろそうしたかった。
そのうち沈黙がつらくなり苦し紛れで会話をし始めた、
「昨日はちゃんと寝れた?」
「…うん」
「そっか、よかった、なんか、何にもしてあげられなくてごめんね、」
「…大丈夫」
「……」
気の利かない振りに気の利かない返事、会話が続くはずもない、私はあまりコミュ力がない方なのだと実感させられる。
それからぼーっとしているうちに、さっきの眠気に再び襲われ、いつのまにかまた寝てしまっていたようだ、
私を起こしたのは家の中に響くインターホンの音だった、起きると時間は昼前まで進んでいた。
深海はずっと隣に居てくれたようで少し玄関を気にしていた。
そして、2回目のインターホンの音が響く、嫌な予感がした、宅配便ならいい、宗教の勧誘でもまだいい、最悪の場合は親か、こんな時間に帰るはずはないが、その最悪の場合も考えると居留守を使う訳にもいかず、私は嫌々玄関と繋がる受話器を取った。
「…はい」
受話器の向こうから聞こえた言葉に私は体を震わせた、
「あ、こんにちは、警察です。ちょっとお時間よろしいですか?」
警察だ。
最悪の場合というのはまさにこれだったかもしれない、警察だ、
「はい。」
反射的に応えてしまった。断るわけにもいかない、
震える手を抑えながら受話器を戻し、
震える脚を抑えながら玄関に向かう、
玄関を開けると二人の男が立っていた、すぐに警察手帳を見せると同時に自己紹介をしてきた、何度もドラマで見たことあるそれを生で見るのは初めてだった、
「少しこの辺りのことについて調べていまして…」
一人の男が私に質問をして、もう一人はメモ帳を手に私の返事に耳を傾けていた、
警察は直接事件のことは話さずに大雑把な質問を重ねていたが確かにあの日のことを調べているのがわかった、私を疑っている様子は感じなかったがもうここまでくれば時間の問題かもしれない、
私は質問に対して何の情報源にもならない答えだけを返した、メモ帳を持った記録係のペンも動くことはなかった、
「ありがとうございます、お忙しいところすいませんでした、」
ドアを閉めた途端急に胸が痛み出し呼吸が苦しくなった、
部屋に戻って深海と顔を合わせた、
深海は全身に力が入っているように震えていた、
玄関の会話を部屋で聞いていたのだろう、警察が動き出したことを理解していた、
「くそっ…甘かった、もっと、もっと工夫しないと、全然ダメだった、クソっ、ふざけんなチクショー、クソっクソクソクソッ!!」
深海が荒々しく嘆き出す、聞いたことないような声で、全くらしくない言葉遣いで、目の前に居るのが一瞬誰なのかわからなくなる、
「クソクソクソッ!!」
深海は震えながらカッターナイフを取り出し出せるだけの刃を剥き出しにし出す、
私が止めようとした時には既に行動は終わっていた、
深海が自分の左腕にカッターナイフを深く突き刺す、赤い血が湧き出てカッターに滲んでいく、血は溢れて腕を流れ床に垂れる、深海は血をじっと見つめる、
私はどうすることもできず固まっていた、
「ごめん、、本当にごめん、、床…汚しちゃった」
深海が息をあげながら謝る、いつもの声に戻った、
「僕が……自首してくるよ」
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