第3話「こうはい」

「疲れたぁ...」

ぐったりと寮のベッドにダイブする。転入して1ヶ月、俺、もとい私はなんとか女としての生活に馴染もうと頑張っていた。

私達は学園に入学すると同時に寮で生活を送ることとなった。二人部屋で相手は-、

「おつかれさま、大丈夫か?顔がやつれているけど」

葵だ。

「そりゃそうだろうよ...女子校って、もっとほんわかとした雰囲気だと思ってたのになんだよあれ...礼儀だの作法だのめんどくせえ...」

入ってすぐに授業やら人付き合いやらの面倒くささに心が折れそうになった。

「そんなのは漫画の中だけだ、女子校にどんなイメージ持ってるんだ...しかし、こんなに礼儀にうるさい学校だとは思わなかったな、清恋学園なんて聞かない名前の高校だと思ったらまさかお嬢様学校だったとは」

葵はネクタイを外しピンク色のブレザーをハンガーにかけた。葵がこの学校にいるのは葵の親とうちの親が知り合いで、私が転校するから葵も同じ学校に転校させようかと提案したら二つ返事で了承したらしい。

そして私たちの通う清恋学園は日本中の金持ちのお嬢様達が集まるお嬢様学校だ。4年間で基本的な勉強はもちろん礼儀作法や5ヶ国語等、普通の学校では習わないような事まで仕込まれる。部活も一応あり、運動系の部活に文化部とその辺は普通だ。

「お姉ちゃん!おかえりなさい!」

隣の部屋からゆずが飛び出してくる。

「ゆずー、おいでえ〜」

我が妹を思いっきり抱きしめ癒される。柔らかく華奢な体だがとても暖かく何より可愛い。ゆずとキャッキャと戯れている私を葵はなんとも言えないような微妙な目線を向ける。

「失礼致します!1年内浦、本日のお役目滞りなく終了致しました!」

「同じく1年クリサリス、右に同じです」

ゆずの部屋から可愛らしい2人の女の子が出てきた。1人は礼儀正しそうな青髪ツインテールの小さい子、もう1人は赤い髪の気だるげそうな青髪の子と同じ背丈の女の子。

「おつかれさま、今日もありがとうねー。あはは、ゆずくすぐったい」

「シャーナ、報告の時くらいはちゃんとしなさい」

この2人は側付きと呼ばれる学年成績優秀者にのみ付けられるいわゆるお手伝いさんだ。私の側付きは内浦魔奈、とても礼儀正しく真面目な女の子だ。葵の側付きはシャーナ・クリサリスという留学生、成績は良いんだがめんどくさがりだし口は悪い。

「すみません、美城先輩」

シャーナは姿勢を正す。

「シャーナの事はわかってるからあまりとやかく言うつもりは無いけど、メリハリはちゃんと付けてね」

「申し訳ございません」

おぉ葵が先輩らしくしてる、ちょっとかっこいい。

「まーちゃん、ちょっと」

私が体を起こして魔奈に手招きすると、魔奈は不思議そうな顔で私の前まで来た。

「どうしました?」

ふわっとした雰囲気でゆずと同じような感じがしてとても可愛い。そのゆずはというと私の後ろに隠れて様子を見ている。泣いたりすることは無いが、まだ2人に慣れるにはもう少し時間がかかりそう。

「ここ、座って」

「は、はい...失礼します?」

困惑した表情で私の隣へと座る。

「はい、今日のご褒美」

私は彼女のほっぺにキスをした。

「ちょ...先輩!?」

「まったく、琴吹は甘いな」

「葵が厳しすぎるだけだよー、私は愛を持って接してるだけだし」

頬を赤らめ私にされるがまま魔奈は恥ずかしそうにはにかんだ。

「あの...お姉さん、これ...」

ゆずがシャーナにドーナツをひとつ差し出した。普段人に話しかけないゆずが、珍しい。

「あ...ありがとう」

シャーナは恥ずかしそうにそれを受け取りパクッと食べた。

「おいしい...」

甘い物が好きなのか、それともよほど美味しかったのかあっという間に食べてしまった。やり取りを見るにシャーナとゆずはかなり仲がいいということなのだろうか。何にせよゆずが自分から話しかけれるようになれたのは良いことだ。

「せ...先輩...そろそろ、はぁ...はぁ...」

愛でられていた魔奈は顔を赤らめ、息を荒くしてなんともエロい表情をしていた。

「やり過ぎだ」

葵に頭をはたかれた。

「たはは、ごめんごめん」

魔奈を解放するとうーん、背伸びをする。

「内浦さんは開銀のお偉いさんの娘だ。あんまり変なことはしない方がいいと思うよ」

「わかってるわかってる」

「い、いえ!変な事なんて、先輩に好意を持っていただいて光栄です!」

どういう意味で言ったのかはわからないが変な意味じゃないとは思いたい。

「まあ、ほどほどにね」

「魔奈、そろそろ時間」

「うん、では先輩、私達はお部屋に戻らせていただきます」

「はーい、また明日ねー」

魔奈とシャーナは一礼すると自分たちの部屋へと帰っていった。


「琴吹さま、ごきげんよう」

「神名さん、ごきげんよう」

クラスでの挨拶は漫画で見たようなお上品なやり方。それが窮屈に感じるのは、まだ慣れていないだけなのだろうか。

葵以外に友達と呼べるような人はまだいない。クラスも寮も同じなので基本的に私の傍にいるのは葵。

「あら、琴吹さん。ご機嫌麗しゅうございます、今日もお独りなんですね」

耳に残るような甲高い声の女がこちらへと近づいてきた。その女の背後には2人の太った女、いわゆる取り巻きだ。

「ご機嫌麗しゅう、竹下さんに川邊さん、永岡さん」

私は下手に相手しないようとりあえず挨拶はちゃんとした。

「貴女のような親の七光りでもちゃんと世渡りの方法は知っているようね。まあ所詮はその辺の底辺校から来た愚民、私たちのような高貴な人類に跪くのは当たり前よねぇ!」

下品な高笑いを響かせながら3人は自分たちの席へと行った。ああいうのとは関わらない方が身のためだが少しカチンときた。まるで普通の家庭の人は底辺だと言っているようだったのが私には気に入らなかった。しかしこんな所で問題を起こす訳にはいかない。何かあれば日本のお偉いさんどころか国家権力が動きかねないのだ。ここは我慢だ、そのうち何も言い返せないくらいのことをして見返してやればいい。今は、我慢だ。


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