第2話「優しさ」
「美城さんいらっしゃいませ!」
「やあゆずちゃん、元気だった?」
女に転生?した日の夕方、葵は学校が終わった足でうちに来た。ゆずは葵にはかなり懐いている。
「それで、そこの美人の人が琴吹のヘンタイマゾ野郎かな?」
「そうだよ、どっからどう見ても美人で優しそうな清楚で可憐な美女だけど中身は男だ」
「その言い回し方、確かに琴吹だな。うぅ、こんな奴の方が美人になってしまうとは...神様が憎い...」
「と、とりあえず美城さん、部屋に上がってください。立ち話もあれですし」
「ゆずちゃんはいい子だねぇ、お邪魔します」
葵はゆずに手を引かれてリビングへと入る。ゆずがこんなに懐いているのは葵以外はいない。
美城葵とは中学の時からの腐れ縁だ。葵は物静かで人当たりがあまり良くないせいか友達が出来ずに教室でもずっと1人だった。そんなある日、水泳の授業でペアになったのだ。男女でペアになるのは変かもしれないが、俺も葵も相手が見つからず結局残り物どうしで組むことになった。
「へ、変な事...しないでよ」
「めっちゃしたいけど流石に常識くらい弁えてる」
「は、はあ!?本音出てるんですけど!」
「俺は正直者なんだよ」
「ほんっと最っ低...」
それがきっかけで葵とはちょくちょく話すようになった。とは言っても最初は避けられていたが、しつこく話しかけていくうちにめんどくさくなったのか相手をしてくれるようになってくれて、次第に心を開いてくれた。
「それで?そこの絶世の美女さんは何か女になったことに心当たりでも?」
「それが本当によくわからんのだ、そもそもそれがわかったからといって戻れるかどうか」
「まあ確かに、だけど正直なところ私たちのような一般人にどうこうできる話でもないんじゃない?」
「う...それはごもっとも」
「お兄ちゃんは、もし戻れなかったらどうするの?」
ゆずの疑問にはすぐには答えられない。当然考えなきゃいけないことだ、しかし本当に戻れなかったらどうすればいいのだろうか。
「そもそも、琴吹は何で男に戻りたいんだ?」
「それは...男として生まれたんだし、それに女って色々面倒くさそうだから」
「確かに女はめんどくさいな。髪の手入れに身だしなみ、匂いとか喋り方とか人間関係とか気をつけないと私みたいに簡単にハブられる。あとはメイクとかもしないと老けて見える。女って大変なんだぞ」
葵が何が言いたいのかはよく分からないが、とりあえず女はめんどくさいということが分かった。
「けどな琴吹、悪いことばかりじゃないぞ。特にお前のその見た目なら認めたくはないが少なくともモデルとか俳優になろうと思えば簡単だし、男にはモテるだろう」
「うん!お兄ちゃん可愛い!」
嬉しくないわけでは無いが微妙な気持ち。
「まあ、とりあえず今後の事を考えよう。流石にこのまま学校に行かないのも良くはないし何より、親が帰ってきた時に見ず知らずの世紀の美女が家に居着いていたら驚いてしまうだろ」
最悪学校は理由を付けて不登校、という手もある。だが親にはちゃんと言っておかなければならないだろう。
「けどパパもママも電話繋がるかな?メールしてもたまにしか返信してこないし」
「確かご両親は海外を回ってるんだっけ?」
「そうなんですよ、毎年クリスマスからお正月の間にしか帰ってこないのです」
「2人とも大手企業の社長副社長だからな、仕事が分刻みで入ってるんだとよ」
今の世界の金融機関をほぼ操作していると聞いたことがある、と言っても昔は普通のどこにでも居る父と母だった。俺が中学に上がって起業し、それが大当たりしたのだ。年収数千億、世界中ある大企業のトップに立つ超大物の人物が俺達の両親だ。
「ふむ、とりあえずメールだけでも送ってあちらから電話をしてもらうのはどうかな?こっちは待ってる間にどうするかを考えればいい」
「それがいいかもな。とりあえず母さんに連絡入れとくよ」
携帯でメールを送信して一息ついた。多分早くても返信が来るのは2日後だろう、その間に考えればいい、そんな悠長なことを考えていたら、携帯が鳴った。
「もしもし?」
「もしもし紅音?あら本当に女の子になっちゃったのね!」
「母さん?どうしたの、いつもはこんな早く連絡なんてしないのに」
「たまたま日本開拓不動産の社長さんとメールしてたらあなたからメールが来たからね、急いで電話しちゃった。それよりどうするつもりなの?女の子になっちゃったって、学校は?もし転校届け出すならどこの学校に転校するかは教えてね、名前も改名するならちゃんと母さんが考えてあげるから。あ、お洋服とお化粧品も送っといてあげるからちゃんとお洒落はするのよ。あとは-」
電話の向こうで母のぺらぺらと喋る声が聞こえてくる。意外にも驚くどころかむしろ先の事を母は心配してくれた。
「後は恋人を作るのはいいけど変な男に引っかからないように-」
「ちょっと待ってよ母さん、驚かないのか?昨日まで息子だったのが娘になったんだぞ?」
「うん?何を言ってるのよ、息子でも娘でも関係ないわ。私たちの子どもには変わりないんだから」
俺の母は当たり前のように言った。少し恥ずかしいような気持ちがしたが、嬉しくなって笑みがこぼれる。
その後、琴吹紅音という男は家の都合で学校を辞めたという事になり、琴吹茜として清恋学園という女子校に次の週から転入することになった。
そして一週間後、
「こんにちは、今日からこの学校に転入した琴吹茜です」
「同じく転入した美城葵です」
何故か葵も同じ学校に入っていた。
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