世界がもし一つのソーシャルネットワークだったら
@furafurafurann
第1話
どうしたら、人生をうまく生きられるかな。
全ての始まりは、誰もが描いたことのあるそんな疑問だった。そんなこと自分で考えなさい。分かれば私はこんな所にいないわ。その少年の母はそう言い捨ててその疑問を置きっぱなしにしてしまった。まったく、無責任な話だ。何十倍も生きているはずなのに、まだ当時子どもの少年に「考えろ」とは。なんて置きっ放しの無責任。ただ、「うまく」という基準もかなり不安定で曖昧で、どうしようもない夢のような疑問だろう。それが不幸の始まりだった。その少年が人生を「うまく」生きるために目をつけたのは、当時全世界に爆発的に拡がっていこうとしていたSNS(ソーシャルネットワーク)だった。こんな風に生きられたら。この物語は、そんな願いを持っていた人間が世界にもたらした影響の、その果ての話だ。
30年前、当時爆発的に拡がっていこうとしていたSNSに目をつけた世界のどこかの変人が、世界中に新たなシステムを導入した。システムの名前は「アカウント」 簡単に言えば、SNS上のアカウントが出来る機能を、人間関係にも反映させましょう、という当時の感覚では夢のような話だ。もちろんそれが発表されたとき、ネット上もテレビの反応もかなり冷ややかなものだった。妄言とさえ言われていた。ただ、それが本当に叶ってしまうまでは。この世界に生きている人々の腕には個人を区別するためのマイクロチップが埋め込められている。ちなみに義務だ。国民の四大義務。そう名付けられたそれは、SNSと同じように、瞬く間に拡がっていった。
マイクロチップを埋め込んだ次の日、俺、桜井 凪葉は説明会に出席していた。
「…このマイクロチップには、特別な機能がついています。〝フォロー〟〝ブロック〟そして、〝ログアウト〟」
研究所の胡散臭い白衣を着たヨボヨボのじいさんはこう切り出した。
「〝フォロー〟するとフォローした方の人間は相手に認証してください、と送ることが出来ます。相手は応えることも応えないことも出来る。友人関係を目に見えるようにしたわけですね。」
「〝ブロック〟は?」
「そのままの意味です。あなたはその人がしている会話を全く視聴出来なくなります。」
試して見てくださいと促されるまま、俺はじいさんの事をブロックした。するとどうだろうか。目の前には何も無い。透明だ。声も形も何もわからない。驚いてブロックを外した次の瞬間、じいさんが俺の目の前に現れた。
「ね?素晴らしいでしょう?嫌いな相手はこの通り、この世界にないものとして扱うことが出来るのですよ。」
ニヤニヤした笑みを浮かべたまま、白衣を翻して俺を見つめ返してきた。
…これ、本当に素晴らしいのか?
「あのー、」
後ろから間延びした声がかかった。と言っても俺にではなく、このじいさんにだが。
「なんでしょう?」
後ろの妙に服を着崩した男がこう聞いた。
「相互ブロックした場合どうなるんですかー?」
「両方が両方の世界からいなくなります。素晴らしいでしょう?」
「へぇ、そりゃ凄い。…あともう一つ。」
「なんでしょう?」
「〝ログアウト〟って、なんすか?」
それはですねぇ、ともったいぶった声が響き渡る。
「全世界からの強制ブロックです♪…まぁ、自殺のようなものですねぇ…」
俺は、この日のことを一生忘れないだろう。
世界がもし一つのソーシャルネットワークだったら @furafurafurann
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