畜音機

安良巻祐介

 

 猫の声をした宣伝機械が、表を走り回っていて忌まわしい。

 ニアオニアオとわめくばかりで、何を言っているのかさっぱりわからないが、いったい誰に向かって何を宣伝しているのか。

 野良猫向けの代物なのかと思いきや、御近所の三毛猫はあれを見るなり毛を逆立てて逃げていた。内容を理解してそうしているならば、それはそれで怖いけれど。

 だいたい、誰があんなものを作って動かしているのだろう。

 近づいて製造シールを見ればいいようなものだけれど、無臭毒性持ちのシャミボウズガスを排気口付近に蟠らせているという噂のせいで、誰も試みるものがない。

 肩口に掲げた赤い幟は、神社仏閣からの正式な宣伝騒擾許可証ということだが、本当に自分で貰ったものか疑わしい。黒い錆のべっとりこびりついたあの柳重型断裁刃の装備を見るに、本来この辺りで宣伝をするはずだった誰かから強引に奪い取った幟なのではないだろうか。

 なんにせよ、あの猫の声と振り回す刃のせいで、ここら一帯はすっかり気の休まらないことになってしまった。

 誰かが犬の吠え声をする宣伝機械でも作って、あれを追い払おうとしているという噂もあるが、かりに本当だったとして、今度はその犬声の機械が、往来を支配することになるだけな気がしている。

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畜音機 安良巻祐介 @aramaki88

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