幼なじみが欲しいんです(序)

双傘

第1話 え?いるじゃん(笑)。

ある冬の話である。


既に木の葉も全て抜け落ち冬将軍なるものが我が物顔で大量の雪を持兵の様に走らせ校内の木々を全て手中に収めていた。そんな有様の中二つの人影があった。

大きな旧い北校舎と比較的新しい南校舎に挟まれている此処は、凍える雪風から逃れるには絶好の場所である。学校のある日なら此処には多くの学生が集まることだろう。しかしながら、今は冬の長期休暇中である。故に二つの人影以外には人の影は見えない。


さて、その二人が何をしているかと言うと…


片方がもう片方に真剣な眼差しで空中に白い息を撒き散らしながら訴えかけている...


なるほど、これは社会一般的に、俗に言う「告白」という行為だ。1人の少年が一人の少女に恋心を抱きその思いの丈を精一杯伝える、なんと感動感激涙無しでは語れない甘酸っぱい青春だろうか。甘酸っぱい。甘くて酸っぱい。必ずしも甘いだけではない、そう酸っぱいのも青春の醍醐味、付き物。彼はその酸味を十二分に味わった、彼は甘いだけが恋でないということに気が付かなかった、そして彼以上に熱い涙を流す彼女にも彼は気が付かなかった。




諸君らは「幼馴染」という言葉にどんなイメージを持っているだろうか。古くからの付き合いのある友人、それは異性も勿論含まれる。

 これは聞くに耐えないとある男の自慢話後悔話である。後悔話を公開話するのは彼とて恥ずかし事だが、既に時は遅い、筆は握られた。それでは皆様にお聞かせしよう。幼馴染が欲しかった何処にでもいる凡庸な1人の男の話を...つまり俺の話だがな(笑)


俺つまり 芥川龍介あくたがわ りゅうすけの話だ。


「幼馴染欲しいな。」

「ん?それならここにいるわよ。」


「幼馴染欲しいな。」

「え?それならここにいるよお兄ちゃん!お兄ちゃんはとびっきりラッキーだね⭐️」


「幼馴染欲しいな。」

「ほほぅ...。主様、幼馴染がどのようなものかは知らぬが妾がその幼馴染なるものになってやっても良いぞ?」


「幼馴染欲しいな。」

「何を言ってるいるのですか?お兄様ここにいるではありませんか。」


「幼馴染欲しいな。」

「そうなの?それならここにちゃんといるよ?私はいなくなったりしないよ...ずっとずっとずっと一緒だから。」



...はぁ、幼馴染欲しいな。



いつものように朝が来て、いつも通りの食事をして、いつも通り家を出る。そういった朝の決まった動きを繰り返す極々一般的普通な凡人の俺。いや、いつも通りに過ごせるならそれは喜ぶべき事だろう、普通の人間である事が幸せだなんて贅沢な人間が言っているようにしか聞えないが、これが可笑しいことに全くその通りなのである。皆は気づかないかもしれないであろう日常が壊されるという事がどんなに辛い事か...今その幸せな俺の日常が脅かされている。この強烈な奴らによって...否、幼馴染達によって。




俺芥川龍介はそこそこ偏差値が高い普通科高校の普通な高校生だ。不良生徒だったり、魔法を打ち消す右手を持ってたりなどしてないし、記憶喪失の幼女と家に住んでたりなど決してしてない...


いや、訂正しよう。幼女とは住んでいる。


 さて、そんな事より俺は今危機に晒されている。というのも、ここ最近何故か俺の日常が崩されている。先述の通り俺は特にこれと言って何もしてこなかった。驚く程成績が悪かったわけでも良かった訳でもない。付け加えるなら少しばかし顔がカッコいいくらいだ、そして身長が高い。彼女はいないが...ま、付き合おうと思えば秒で付き合える、しかしながら、俺は今まで守ってきた 彼女いない歴=年齢 という地位をこれからも硬く守っていくつもりだ。クラスで気になる子がいるかどうかと聞かれれば俺は即答する。

NO。

さてさて、話のベクトルがズレてきたので話を戻そうか、俺の日常が今大変危険な状態にある。というのも、俺の幼馴染(しかも、全員女)が俺の家に引っ越してくるからだ。そう、幼馴染である。付け加えるなら幼馴染達である。そして、俺は幼馴染キャラが大好きだ...なんなら、今まで守ってきたものをかなぐり捨ててでも俺は幼馴染と付き合いたい。幼馴染キャラとは付き合いたい。そう、俺の幼馴染というポジションにいるヒロイン達は俺の中のキャラとは全く異なるのだ、ホントに嘆かわしいことにほかのキャラのとしてはかなり確立したキャラを個々に持っているにも関わらず何故か幼馴染キャラだけいないのだ。


はぁ、嘆かわしい。


その幼馴染達により俺の静かな日常が壊される、中々気に入っている生活だったんだがな。言い忘れていたが俺自身は普通な凡人な高校生なのだが親は少しばかし常識を逸脱している、特に経済力においてはかなり大きな力を持っているだろう。俺が田舎といえども広い土地に大きな家いわゆる豪邸に住めるのも親のおかげ様様なのである。

しかし、その反作用と言うか経済力が驚く程大きいとなれば至極当然の事かもしれないが俺の両親は殆ど家にいない。俺が中学に上がった時から、たまに顔を合わせることもなくなり今では年に一度電話するかもしれないくらいだ。普通の家庭で育ったなら反抗期の真っ最中であろう時期に反抗する相手がいないのだ。故に未だに反抗期なるものが何なのかは分からない。

さてさてさて、何故か今日は話がよくそれるな…つまり俺の言いたいことは俺の家に幼馴染達が居候するってことだ。俺が幼馴染キャラ以外の事も愛せたら絶好のチャンスなんだろうが生憎様俺は幼馴染キャラ以外眼中に無いって性分だ。故にチャンスとは言い難いのである。


「はてさて、どうなるのだろうな。」



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