幕間 女三人、ひみつのルール(みゆき視点)
まだ三時半、仮眠時間はもうちょっとあるね。
あたいは腕時計をみて、しばらくまどろんだ。隣で寝ているのはB子。ほんとは隣にはいつものように浩が寝てる予定だったんだけど、しかたないよね。みんなで決めたことだし。
まどろみのなか、あたいは昨日の夕方のことを思いだしていた。
***
院長んとこへ、浩が怒鳴りこみに行こうとしているのを止めた後、あたいは看護部長に呼ばれた。ちょうど浩が入浴介助のために、あたいから離れたときだ。
今村看護部長の部屋は職員室とは別にあるんだ。
一応、部長だからってこともあるけど、外部の人たちと打ち合わせすることもあるから、ちゃんと応接セットも置いてある。
「なんですか? 今村さん」
「何怒ってるの? つっけんどんねぇ」
部長室に入るなり、ぶっきらぼうにあたいは言い放った。
院長の態度になんにも文句を言わない今村さんに、あたいはムシャクシャしていた。だって上司の看護部長が院長に文句いうべきっ! 部下を一気に三人も失ったんだからね!
「B子さん、入ってきていいわよ」
イライラしているあたいを無視して、今村さんは職員室側の扉に声をかける。
ドアをノックすると同時に、B子さんが入ってきた。
向かい側のソファにB子さんが座ると、なぜかさよっちが入ってきた。
「部長、遅れちゃってすみません」
「荒井先生、こっちこそ急な話で申し訳ない」
あれ? 話って、あたいだけじゃないかったのかな?
B子さんはうちに泊まる予定だったから、わからないでもないけど、なんでここにさよっちが?
「集まってもらったのは他でもないよ。本間君のことだ」
頭の中がクエスチョンマークだらけになっていると、浩の名が呼ばれた。
「浩がどうかしましたか?」
「いや、きっと中田院長んとこへ怒鳴り込みに行くんじゃないかと思ってさ」
ドキッ! さっき行こうとしてたのを止めたばかりだよ、看護部長……。
「あ、そ、そんなことはないとは、お、おもいます」
「わかりやすいねえ、やっばり行くとこだったかな?」
ニヤニヤしている看護部長。
おかしい。何でわかったんだ? あたいは言ってないぞ。
「バカね! みゆき、顔真っ赤にして、どもってれば誰だってわかるわよ」
思いっきりさよこに言われた!
B子さんもクスクス笑ってるし!
絶対、違うしっ!
「なごんだとこで本題だ。B子さんの一時保護と夜勤を、荒井先生と遠野先生、本間先生の三人で一緒にやってもらうよ。今夜の夜勤職員がクビになっちゃってさ、現場が廻らないんだ。頼む」
そう頭を下げられても……。あたいはさよっちとB子を顔を見合わせた。
「女三人と男一人だと問題になりませんか?」
と、さよっちが尋ねた。
それ、あたいも心配だ。まずいでしょ? 職場でなんて……。
「ん? 今さらでしょ? それとも荒井先生と遠野先生は、女三人で本間先生と四Pするのが嫌なの?」
「よ、よ、よんぴぃ――――!」
あたいの体温と血圧が急上昇するのが自分でもわかる。
自分の声じゃないみたいに、素っ頓狂に叫んじゃったし。
「がはは! ごめんごめん、つい……。冗談はともかく、B子さんの一時保護は必要だ。あとな、支えて欲しいんだよ、本間先生を」
急に真剣な顔をして、あたいたち三人を見つめる今村さん。
どうしたんだ? 急に……。
「もし私も院長から肩たたきされたら、ちゃんと患者さんのために動けるのって、本間先生と遠野先生、荒井先生しかいないんだ……。今日の様子をみてると、どうやらそれが現実になるかもしれないって思うんだ」
寂しそうに笑う今村さん。
なんて弱気な……。いつもなら豪快に笑い飛ばすのに。
「そ、そんなこと……。看護部長がいなくなったら、どうすれば……」
なに、さよっちも弱気になってるんだ? あたいにケンカ売ってくるときの勢いはどうしたんだ?
「そんなにここ、深刻なことになってるんですか?」
目をぱちくりさせながら、B子が聞いてきた。
ああ、そっか。ここから離れたんだから、事情もわかるわけないな。
「ええ。深刻なの、B子さん。院長が今朝、三人もクビにしたのよ……」
と、今村さんがざっくりと状況を話すと、
「え? な、なんでです? ミスでもしたんですか?」
口に手をあてて、B子さんがあ然とした。
「いいえ。ただの院長のわがままというか、暴走ね。入院患者さんを増やせだの、退院させるなだの……ともかくこの病院の役目を無視してるのよ!」
今村さんに代わって、さよこが吐き捨てるように言った。
彼女もけっこう頭に来てるんだ。あたいはちょっと安心した。院長が怖いからか、職員で文句いう人があんまりいなかったから……。
「看護部長、人員は増やさないのですか?」
「逆ね、減らしたから収入が増えたって、喜んでたわよ、あのハゲ総務部長は」
素朴なあたいの質問は、あっさりと否定されちゃった。
「あの……。部外者のあたしから言うのもなんですが……。浩さんをフォローしてあげればいいんですよね?」
「ああ、そうだよ。B子さん」
と、うなずく今村さん。
「じゃあ、あたしもお手伝いしますよ。この病院が落ち着くまでは、私たち三人、一旦休戦しませんか?」
「ん? 休戦ってなんだ? 三人で何を争って……。ああ、そっか」
B子の言ったことにすかさず反応する看護部長。休戦ってことにピンときたらしい。
あ、あたいは最初から戦ってなんかないぞ! うん。だって絶対、浩はあたいを選ぶから。
「いいわよ、B子さん。勝負はフェアじゃないといけませんものね」
おい! 何納得してやがるんだ、さよっち。
にやっと笑ってこっち見んな!
負けるか! 絶対、この二人には勝つんだ!
「あたいも休戦には賛成。戦うなら安定した条件でないと!」
ふん! 浩を寝取ろうって、そうはいかないんだから!
「何だかよくわからないけど、じゃあ、三人とも本間君のことをよろしくね」
意味深に笑う今村看護部長をおいといて、あたいたちは不敵な笑みを浮かべながら、視線をぶつけ合った。
というわけで、浩を守るために、あたいたちは結託したんだ。
***
え~と、あたいの太ももの間にいるのは、浩の頭だよね……。
やだ……。さ、さすがに恥ずかしいよ、浩。
で、よく見ると浩の左右に抱きついてるのは、さよっちとB子さん。
なにがどうなったらこんな体勢に!
B子さんはあたいの隣に寝てたはず。で、浩とさよっちがくっついてるのはわかる。 どうして――――!
あ、もう浩が目を覚ましちゃうじゃない!
どんな顔して……。あ、寝たふりしておこう。浩が悪いのよ、そうよ……。
そんなこんなしてるうちに、再び、あたいは眠気にのみ込まれていった。
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