~第1話~ 旅の始まり


暖かな陽の光が差し込み穏やかな風が大木の葉を揺らす。

配達が終わり相棒のペリカンとともに陰でひと休みする。

いつもと変わらない私の大好きな日常。


「ずっと一緒だよ」


それに応えるかように大きな青い翼は私の桃色の髪を一定のリズムで撫でていく。


心地良さから不意に昔に読んだ本のことを思い出す。


魔法が使える人間が箒に跨り夜空を飛ぶ。

月や星に触れてその輝きを心に宿してあたたかさに包まれる。

確かそんな内容だった気がする。


でも、現実は違う。

魔法を使って箒で空を飛ぶことは出来ない。


飛行能力を持つのは特別な種族のみ。

相棒も飛べはするがその種族の住む国にはいけない。


この世界はそんな風にできているのだ。


考え事をしてるのを悟られたのか撫でている翼とは逆側の翼で目元を覆われて光は軽く入ってくる程度になる。


「いつも、ありがとうね」


いろいろと考えていたのが嘘のように自然と笑みがこぼれる。

安心感と配達後の疲れからなのかやってきた眠気により相棒に見守られながらそっと瞼を閉じた。


いつまでもこの日常が続きますようにとそっと願いながら。


_______________


夢を見ていた。

幼き頃に初めて彼に乗り空を飛んだ日の夢。

夕日色に染まった雲に触れた時の思い出。


だけど、その楽しい思い出は突然崩れ去った。

綺麗な夕日は辺りも見えないほどの深い闇に飲まれる。

どんどん落ちる、堕ちる。


早まる鼓動、詰まる息。

呼吸をするだけで心臓が押しつぶされそう。


不安、恐怖、喪失感。


なにかを失った。

そんな気がする。

_______________


ドクンッと心臓が脈打つ。


「へ…あ…!?え…」


すぐに気づいた。

いつもの暖かさがない。

辺りを見回すもどこにも見当たらない。

眠っている時はずっとそばに居てくれて離れないのに。


相棒が消えた。

物心がついた時からずっと一緒だった大切な子が消えた。

どこにいったかもわからない。

何が起こったかもわからない。


でも、1つだけ確かなことがある。

彼はきっと誰かに連れ去られた。

音を立てることもなく気づかれぬように。


手元に残っているのは、地面に落ちていた彼の羽根1枚。


「捜さなきゃ……」


忽然と姿を消した彼を捜すのは私だけ。

私がやらなくちゃ。


彼が待っている。


「行かなきゃ……」


ポツリと呟く。

自分の弱さに負けないために。

愛用の杖を握りしめて立ち上がる。


1人で行動するのは初めてですごく心細い。

それに遠くの場所まで歩いていった経験もない。


けれど、ここからなら自分の住んでいるところに戻るよりも大きな街に行く方が近いし情報も集まる。


今度いつここに戻ってこられるかは分からない。


彼が見つかったらまたここに来よう。

いつものように頭を撫でてもらおう。


それまでの辛抱だ。


大木に誓う。

きっと彼とここに戻ってきますと。


大木に願う。

私たちを守ってくださいと。


こうして、私の旅が始まった。

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ふぁんたずぃー むんはく @ryukineko

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