クローン殺人事件

半社会人

クローン殺人事件


俺が死んでいた。


目を開け、顔を歪めている俺。


そんな俺を、『俺』が見つめている。


死んでいるのは、俺のクローンだった。


※※※※


20××年。


自身のクローン作製が一般的となった時代。


科学技術の発展は、ついに自分が一人でいることでは満足できなくさせたのだ。


ある者は、労働力削減のため。


ある者は、自身の美しさをめでるため。


それぞれが思惑を持って、『自分』を生み出していく。


どれくらい自分のクローンを生むのかは、その人個人の好みと財力による。


いくら普及したとはいえ、クローンは決して安い買い物ではない。


そのため、一人や二人で済ますものもいた。


だが、俺は違った。


俺の仕事は殺し屋だ。


俺の筋力、精神力。


それらを備えた最強の量産兵士。


俺の懐は順調に潤っていった。


※※※※※※※※


何故だ。


いったい誰が。


クローン殺しは重罪である。


いくらその人本人ではないとはいえ、一個の人格を持った生物である。


動物愛護がまかり通っている時代において、そんな『生き物』を殺すことは極刑に値する。


だからこそ、何故。


クローンを殺すということは、究極、その本人を恨んでいる者がいるということだ。


殺し屋として派遣してきた数多の『俺達』。


その『俺』を恨む人間が、手にかけたということだろうか。


だが……


なぜわざわざ、何人もいるクローンを殺したりする?


そうやって、動揺していた時だった。


※※※※※


クローンには、一つの特性がある。


それは、いくら人格を備えていようと、決して本人と同じような感覚は持たないということ。


自分の命を大事に思ったりはしないし、むしろ進んで捨てていく。


だからこそ、『自分』にかしづいたり、いいように使われたり出来るのだ。


だが、遺伝子には、突然変異というものがある。


本人と全く同じような人格を備えたクローンが生まれたとしたら?


何故数多いるクローンを殺すのか?


それは、『俺』が死んで動揺するのは、「俺」だけだからだよ。


そういって、「俺」はその拳をふりあげた。


※※※※


がつんと後頭部に衝撃が走る。


視界が揺らぐ。


最後に見えたのは、薄く笑う『俺』の顔だった。

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