静かな空の下
蘭
静かな空の下
私の地元。そこは"都会"より"田舎"という言葉がしっくりくる。周りを見渡せば、都会のように高いビルなどの建物はほとんどない。二階建ての住宅、その間に垣間見える田畑。また遠くには大きな山が3つ。この県を囲うようにそびえ立っている。
「田舎だなぁ。」
こんなことを思いながら私は歩いていた。
今日は友人と久しぶりに会う約束をしていた。駅で待ち合わせになっているのだが……私は時間より早く着いてしまった。そのため付近を散歩している。
周りを見渡しながら歩いていると、変わらない姿にホッとしている。本当にここは変わらない。留守にして戻ってきても変わらない景色が、今日も私を迎えてくれている。ふとスマホを見ると、約束の時間まで15分を切っていた。思ったより時間が経ってしまった。私は元来た道を戻り、友人との待ち合わせ場所を目指した。
友人が来るまであと5分。
道行く人たちは友人や家族、恋人と楽しそうに話しながら歩いている。その中には1人で歩いていたり、サラリーマンらしき人たちもいる。その人たちは早歩きで颯爽と歩き、一方は片手に持ったスマートフォンを見ながら歩いている。その光景に息苦しさを覚えた。まるで何かに追われて生きるのを急いでいる、そんな風に見えてしまった。その姿が自分と重なったのかもしれない。
私は何気なく空を見上げた。上を仰ぎ見て……息を飲んだ。
私は全く気がついていなかった。空が晴れていることに。
空の色に気が付かないほど、心に余裕がないんだと痛感した。
今私の目の前には、青色が広がっている。
ただ、ただ……
目の前には青色が広がっている。
何の色も混じっていない青色が。
「お待たせ。」
気がつくと友人の声がした。
私はその声で我に帰ると、声のする方へ振り返った。
「おかえり。」
そこには何も変わらない景色に囲まれて、
何1つ変わらない友人の姿があった。
いつもと同じ変わらぬ声で、変わらぬ笑顔で迎えてくれる友人が。
「ただいま。」
笑顔でそう答え、友人とともに歩き出した。
私は少し歩き出して、空を見上げた。
さっき空を見た事で少し重荷が取れたのかもしれない。気がつけば少しだけ、ほんの少し私に空を見る余裕が出来ていた。
今見上げた空は変わらない、青色。
そこに新しく白と黒が混じった。その2色は楽しそうに青色の中を飛んで行った。
それは楽しそうに。
それは私に勇気をくれた。
この先の道は自由だと、好きに飛ぶように進めと言われた気がした。
私は息を吸い、歩き出した。
明日へと続く一歩を。
静かな空の下 蘭 @9-natsu
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