実例で学ぼう!転生面接3つの質問!
ちびまるフォイ
答えは最初から決まってた
ある日の朝だった。
「おい! 人が落ちたぞ!」
もうすぐ快速電車が来るというのに、
ホームに立っていた人がが線路に落ちてしまった。
慌てるばかりの大人をよそに俺はさっそうと線路に飛び出した。
「大丈夫ですか!? 今助けますから!」
今朝の教室の話題は持ちきりだ。心の中で笑った。
けれど、倒れた人は俺の意地になって動かない。
「死なせてくれよぉ……もう人生どうでもいいんだ……」
「え、ちょっ……いいから上がってくださいよ!」
「ほっといてくれぇ……死にたいんだ」
「あんたが死んだら電車が遅れてめっちゃ迷惑かかるんだよ!」
生産性ゼロの会話で時間を使ってしまったのが運のツキ。
すでに目の前には電車が迫ってきていた。
「や、やっぱり怖い!!」
「うそだろ……」
落ちた人はホームの下へと緊急避難をし、俺は見事に線路の藻屑となった。
・
・
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「次の転生者のかた、どうぞ」
「こ、ここは……?」
「はい、ということで、転生面接をはじめたいと思います」
気がつけば真っ白な部屋に椅子が一脚。
眼の前には長テーブルを挟んでスーツの男が座っていた。
「て、転生面接?」
「いや、もうだいたいわかってますよね?
心の中に「転生欲求」が80%を超えている場合
だいたい10円ガムの当たりと同じ確率くらいで転生面接が受けられます」
「この面接を受かれば、転生できるんですか」
「さよう」
「誰だよ」
「ツッコミが弱い、と。はい今の減点」
「もう始まってるんですか!?」
「最初にはじめると言ったでしょう」
慌てて俺は面接用のよそいきスイッチを入れる。
「失礼しました、面接よろしくお願いします」
「おっ、やる気になったようですね。
では質問をしたいと思います」
ごくり。生唾を飲む音が自分でも聞こえた。
「あなたが転生を志望した動機はなんですか?」
「それは……昔から転生というものに興味があり、
いつか自分が死んだときにも転生できたらなと思って
今回転生したいと志望いたしました」
「弱い」
「弱い!?」
「なんですかその動機は。仮にもあなた主人公になるわけですよ。
そんな量産型ロボよりもコピペされているうっすい目的で
この世界を平和にしたりできるんですか?」
「それは……」
「今じゃ転生志望者も多いんですよ。コンビニ感覚で来やがります。
その中で頭一つ抜きん出てないと、安易に転生させられないんですよ」
「じゃ、じゃあ! 異世界に行ってハーレム作って自堕落な人生で
そんで、毎日エッチなことばかりして過ごしたいです!」
「ぶっ殺すぞ」
「コレもダメ!?」
「お前、なに自分の欲望丸出しにしてるの? ケモノかよ。
あのですね、一応は見られる立場というものを理解してください。
中年のオッサンの日常をモニターしても誰も見ないのと一緒です」
「それじゃ……。俺、工業高校だったんで、
異世界でこの経験を生かしてファンタジーならざる
科学の発展でもって人々に勇者を待つのではなく、自分で倒す力を与えたいです」
「まあいいでしょう」
面接官は手元のボードにスラスラとペンを走らせた。
「では、自己PRをお願いします」
「え、今のじゃないんですか」
「今のは志望動機でしょ」
「PR……」
これまで「全然勉強してなかった」詐欺を繰り返した自分にとって
改まって自分が優秀だと売り込むのは日本人としての抵抗があった。
それでも、と自分を奮い立たせてPRを行う。
「はい! 私は、えと、小学生のころからリーダーシップがあり
部活でも部長となってみんなをまとめていました!
高校生になってからもみんなの中心となって球技大会でも活躍しました!」
「ふぅん」
「反応うっす」
「リーダーシップ、ねぇ……。いや、いいんですよ?
異世界じゃ、なんやかんやで軍を率いたりするケース多いですし。
まぁ求められる素養ではあるんですけどねぇ」
「な、何が足りないんですか」
「具体性」
「具体性!?」
「証拠が欲しいですね。あなたが陣頭指揮を取ったからこそ
どこどこの賞を取りましたとか成果を見せてほしいんですよ。
あなたが部長になったことで、部はなにか変わりましたか?」
「……雰囲気が良くなりました」
「弱いですよね」
「……」
「うーーん、まあ、いいでしょう。
実際、あんまりカリスマ発揮されても感情移入しにくいですし。
あなたくらいの感じがちょうどいいのかもしれませんね」
「……なんだろう、この腑に落ちない感」
「初めてですか? それが恋です」
「ウソつけ!」
面接官は手持ちのボードにまたペンを走らせた。
今回の回答やらを評価しているのだろう。
「では最後の質問です。
転生後の自分はどうなっていたいですか?」
「ど、どうって……チートがあると嬉しい、とかですか?」
「そうではなく、あなたご自身の将来の姿です。
何万もの兵を率いる国の長になりたい、とか。
村の人からしたわれるような和を大事とする転生者になりたいとか」
「転生後の自分……」
そんなもの転生してみなくちゃわからないだろう。
誰だって子供の頃に描いた「〇〇屋さんになりたい」も
その通りになった人なんて日本にどれだけいるのだろうか。
そんな反論を必死に飲み込んで考えを巡らせる。
「て、転生後の自分は……神になりたいです」
「は?」
「私の名前を出せば誰もが感謝して手を合わせるような。
毎朝特定の時間に私のいる方角に向かって祈られるような。
それだけ、慕われて感謝されるような存在に私はなりたい!」
「……なるほど」
「どうですか!?」
「なんか"奇をてらいました"感がすごくてちょっと……」
「もうストライクゾーンがわからないよ!!!」
「神ね、ぷぷっ……ふふふ、いいんですよ? 素晴らしい。
新世界の神にでもなれば、ははは、いいんじゃないですか?」
「笑ってるじゃないか!!」
「まあ、これで転生面接は終了です、お疲れ様でした」
「合否はいつわかるんですか?」
「あちらのくす玉を引いてください」
「はい!?」
すでにくす玉が用意されていた。
これ準備されているということは
合否が最初から決まっていたのではと思う。
まぁなんやかんやいいつつも、他に転生志望者はいなかった。
ということはつまり……。
「ではくす玉を引いてください」
「えい」
くす玉が割れると中から大量の紙吹雪と――
【 お祈り 】
という文字が出てきた。
「え、これは? 合格ってことですか?」
「いえ不合格。なのでお祈りしてます」
「え゛」
「神にはなれなくても、お祈りしてもらってよかったですね」
「いやいやいや!! おかしいじゃないか!
他に転生志望者はいない! 俺ひとりなのに落選って!」
「あなたは異世界に対する理解が低く、
主人公としての素養に問題があったんです」
「でも俺が転生しないと、世界は救われないんだろ!?
ここで不合格にしたら誰が転生して世界を救うんだよ!!」
自分で言ったとき、目の前に座る人を見てハッとした。
「私が行きます」
面接官は消えた。かくして世界はのちに救われる。
取り残された俺は空いた椅子に座って、長テーブルにひじをついた。
「次の転生者の方、どうぞ」
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