原典「語られぬ英雄たち」

雨宮羽依

“エクス”

 その日、叔父さんのカボチャ畑で出会った同い年くらいの女の子はしきりに泣いていた。空のように蒼い髪、蒼い瞳。そこからとめどなく溢れる涙に戸惑いつつも、僕は彼女に声をかけた。

 彼女は驚いたように僕を見上げ、それから僕に「あなたはフェアリー・ゴッドマザーの使いなの?」と、そんなことを聞いたっけ。僕が何者であるか、自分とどういう関係なのか、彼女は全部分かっているはずなのに、まるでそう聞くことが自然であるかのように彼女は尋ねたんだ。


 それからというもの、僕らは出会ったカボチャ畑でよく話すようになった。彼女――エラは、家族から酷い扱いを受けているようで。それでも『運命の書』には幸せになれると書いてあるからと未来を信じて笑っていた。

 僕はそんなエラが誇らしく思えて、同時に彼女の笑顔がすごく眩しく感じた。


 だからエラが――シンデレラが、お城の舞踏会へ行くと言ったあの日、僕は本当に嬉しかったんだ。良かったねって、本当に心からそう思ったんだけど、同時に彼女の相手の王子様がどんな人なのかがすごく気になった。

 彼女はいままで本当に辛い思いをしてきたんだ。彼女を幸せにできない奴と結ばれるくらいなら僕が――って、柄にもなくそう思った。


 そんなわけで僕は、シンデレラと結ばれる王子様を見に行くことにした。

 その選択は、自分の意志でしたものだ。王子様が彼女にふさわしくなければ、想いを伝えようと。それが僕の『運命の書』には書いていなくても、それくらいはしてもいいだろうと。


 そして、僕は出会うことになる。


 シンデレラが幸せな運命を掴み取るあの夜。

 フェアリー・ゴッドマザーの魔法がかけられるあの夜。


 僕と『調律の巫女』……レイナは、月の光が差す森の中、運命の出会いを果たす。




 僕の名前はエクス。

 お姫様の代名詞ともいえるシンデレラの幼馴染で、『調律の巫女』であるレイナたちと一緒に旅をする『調律の巫女一行』の一員である。


 それは、僕の『運命の書』に記された“未来”の話。

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原典「語られぬ英雄たち」 雨宮羽依 @Yuna0807

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