第9話
昼はもうそこまできていた。
今日も相変わらず甘い玉子焼きをつくってきたわたしは、おまけのタコさんウインナーのことも考えながら早くあの時間にならないかとそわそわしていた。
そして、昼を告げるチャイム。
周囲には目もくれず一目散に中庭に向かおうとするわたしを呼び止める声に、一瞬驚き、そして振り返った。
「梓」
同じ教室なのにクラスではほどんど会話もしたことのない里子。中庭へもわたしが先に着くのがいつもだったのに、この日の里子は違った。
「一緒に、行ってもいいかな?」
自分の弁当箱を見せながら近付いてきた。
「ど、どうしたの」
「これからは一緒に行こうよ、ね」
昨日の今日でこの変わりようにはわたしも動揺せざるを得なかった。でも。
「もちろんよ、お姫様」
「えー? なにそれえ」
右手を差し出して求愛のポーズ。
ただ笑っているだけかとおもいきや、意外と里子も乗り気だったようで、すんなり左手を差し出してきた。
「さあ、行こうか」
年が変わればもうすぐ二年の恋。でも、恋から愛に変わった一年。
わたしと里子は仲良く手を繋いでいつもの秘密の箱庭へと向かう。そう、春になれば桜が待っている花園。
そろそろブランケットでも必要かしらね、なんて言いながら、例え冬の寒さに耐え切れなくなって場所が変わってもまた新しい密会場所が探されるに違いない。
初めて繋いだ里子の手はもう冷たく、今年のクリスマスプレゼントには手袋でもあげようかなと幸せな妄想に浸るのであった。
ふたりぼっち。 桜良ぱぴこ @papiusagi
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