昔話 蛇神様と蛙達⑨
龍澄川へ戻ってきた5匹は仲間達に事の顛末を伝えました。
仲間達も「へびがみさまをこーせーさせたい」「せーりゅーがわをまもりたい」と話し、全員故郷へ戻ることになりました。
蛙達は良太郎くんを家まで送り届け、別れを告げました。
良太郎くんは大泣きし「僕も一緒に行く」と言いましたが、
「また、あそびにくるから」
「まっててね」
と蛙達に説得され、渋々頷きました。
蛙達は良太郎くんのいる村を離れ、歌いながら帰りました。
かえるのこは かえる
うちまで かえる
うまれたときは たまごでも
おおきくなれば りっぱなかえる
かわのほとりにある おうちまで
ぴょんぴょんはねて かえりましょ
かえるこは かえる
かえるのうちに かえる
その後、清竜川へ戻ってきた蛙達は、蛇神様のお世話をするようになりました。昆虫や小動物を捕らえて食べさせたり、川に近づく人間を追い払ったりしました。
やがて川は元の澄んだ川へと戻り、近くに人間が住み着くようになりました。あの獰猛な蛇達もいつの間にかいなくなっていました。
蛇神様は相変わらず人間を食べようとしているようで、川に近づいてきた人間を見つけては食べようとします。
そんな時は蛙達が蛇神様を止め、人間を助けました。
蛙達の苦労は今なお絶えませんでしたが、彼らは故郷の川が綺麗になってとても満足でした。
「……おしまい!」
人間の子供の姿をした蛙が蛇神様との出会いの話を終えると、仲間の蛙達は大きく拍手した。
一緒に話を聞いていた人間の少年も、つられて拍手を送る。いつものように1人で釣りをしに来たら、巻き込まれたのだ。
「やー、なつかしーはなしだった!」
「そんなこともあったねー」
「あれからなんねんたった?」
「さー? でも、ぜんぜんへびがみさま、こーせーしないね」
「あのおかた、やるきないんだよ」
「しょーがないねー」
「おらたちががんばればいいさ」
「そーだそーだ」
蛙達は当時を懐かしみ、感慨深そうに頷く。当の蛇神様は、川の底で昼寝をしていた。
「そういえば、良太郎くんはその後どうなったんだ? 結局お前達が人間じゃないと知ったのか?」
ふと、人間の少年は疑問に思い、蛙達に尋ねた。
蛙達は一斉に首を横に振り「言ってない」と答えた。
「りょーたろー、おとなになるまえにひっこした」
「えど、ってとこ」
「だから、ぼくらがずっとこどもってしらないまましんだはず」
「にんげんはじゅみょーみじかいから、ふべんだな」
「な。またりょーたろーとあそびたかった」
蛙達は悲しそうに、うな垂れた。彼らにとって最後に良太郎くんと遊んだ時のことは、昨日のことのようにハッキリと思い出せた。
人間の少年は悲しむ蛙達を見てバツが悪くなり「ごめん」と謝った。
「でも、良太郎くんの名字も出身地も分かってるなら、良太郎くんの子孫が今どこに住んでいるのか分かるかもしれない。俺、探してみるよ」
「ほ、ほんと?!」
途端に蛙達の表情は明るくなった。
「りょーたろーのしそん、あいたい!」
「きっと、りょーたろーみたいにぷくぷくしてるとおもう!」
「しそんみつけたら、つれてきて!」
「いっしょにあそぶ!」
「分かった、分かった」
人間の少年は家へ帰るとさっそく、父親に良太郎くんについて尋ねてみた。
父親の一族は代々、この清竜川のほとりにあるこの街で生まれ育ったと聞いていた。かつて良太郎くんが住んでいた龍澄川ほとりにある村(今は街になっている)についても、何か知っているかもしれなかった。
すると、意外な答えが返ってきた。
「龍澄村の大川家はお前のご先祖様だよ。一度は江戸に移り住んだんだけど、良太郎の代でこの街に引っ越してきたんだ。私財を投げ打って川を整備したり、川の生き物を守るために環境保護活動をしていたらしい。なんでもその昔、人間に化けた蛙の子供と遊んだことがあったそうで、清竜川を守るのに協力したいと言っていたと聞いたことがあるよ」
人間の少年は父親の話を信じられなかったが、自分で調べてみて、父親が話していたことが本当だと分かった。
1週間後、人間の少年はそのことを伝えに、蛙達の元を訪れた。
蛙達は意外過ぎる真実と、良太郎くんが清竜川があるこの街に戻ってきていたことに驚き、何匹かショックで倒れた。
暫くして仲間達が意識を取り戻すと、1匹の蛙が人間の少年に言った。
「なにはともあれ、しんじつがわかってよかった。このままりょーたろーくんのことしらなかったら、きみがしそんだとしらないままだった。しらべてくれて、ありがと」
「お、おお。俺も自分のルーツが知れて良かったよ」
人間の少年は照れ臭そうに頭をかく。蛙は大きな真っ黒い目で人間の少年を見上げ、続けて言った。
「じゃ、すもーだな」
「へ?」
気づけば、周りは蛙達に取り囲まれ、逃げられなくなっていた。
正面に立った蛙は既に準備万端のようで、四股を踏んでいた。周りの蛙達もノリノリだった。
「しそんとあそべるひが、こんなにはやくくるとは!」
「しあわせだなー」
「つぎおれ! おれがすもーする!」
「すもーのつぎはおにごっこね!」
「そのつぎはかくれんぼ!」
「いぇーい! もりあがってまいりましたー!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
人間の少年は蛙達を止めようとするが、聞き入れてもらえなかった。
別の蛙が蛙と人間の少年の間に立ち、行司を務めた。
「はっけよーい、のこった!」
「ちぇすとー!」
「ぐほぉっ?!」
行司が合図した瞬間、相手の蛙が人間の少年に突撃した。人間の少年はいとも容易く負けた。
(昔話 蛇神様と蛙達 終わり)
へびがみさま 緋色 刹那 @kodiacbear
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