第二十六話 月は死す

26-1 述懐

 夥しくこの世に生まれ落ちる神よ。時として葡萄の実のように、柘榴の実のように、房を成し、群れを成して生み落とされし神々よ。


 汝らはさながら果樹の如く生まれ、愛でられ、崇められる。伸びすぎた枝葉は丁寧に刈り取られ、その果実は称賛を以って味わいつくされる。しかし、いつしかその枝を揺すぶる手はいなくなる。果実は地に落ちる。豊穣の土の上であれ、乾いた砂の上であれ、熟しすぎた果実は不様に潰れ、果汁は飛び散り、果肉は毒々しくも崩れていく。種子しゅしはまだやわらかい果肉の断片をうっすらとまとったまま地に撒かれる。しかし、芽を吹くことは決してない。


 聞け、信仰を失った数多あまたの神々よ。群れ成し房成す神々よ。汝らこそ潰えた果実である。私はその千切れた肉を、土に沁みこんだ果汁を、ばら撒かれた種子を拾い集めた。とうに果樹が枯れ果てた今、汝らはただの土の上のしみ、消えゆくばかりだ。もはや人間の賞味にさえ値しない憐れな汝ら。さればこそ、私は拾い集めた。かつて神であった者たちよ、汝らはそのを以って私の傷を癒し得る。




 ――だが、篝火よ、否、九尾の狐よ。お前だけは腐肉でなく、果実そのものであった。それもまだ枝に成る果実だ。お前が天空に浮かんだとき、お前を注視した多くの目によって、お前を畏れた多くの心によって、果実は熟したのだ。私はこの時を待っていた。ずっと待っていた。


 篝火よ、お前の果肉は私を潤した。今宵、私は再び紅き月を負おう。







「ようやくお帰りですか、姫」

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