『人と一角狼、均しく六合の地を分かつ。
王たるものは御霊を交わし、久遠の縁を結わうべし。
知己朋友を扶け、尊び、姿容を越えたる鏡と知れ。』
初代九霄が定めた〝天地大綱〟の崩壊より、この物語は始まります。朋角を喪った元狼士の青年・野火と、人里を離れ一角狼の群れで暮らす少女・宵越──メインキャラのふたりがとにかく愛おしく、寝る間も惜しんで読み耽りました。
言葉を持つ人と持たざる獣、異なる種族のあいだに溝が生じてしまうのは仕方のないこと。けれど、心を通わせることを諦めてはならないと、ときに壊れながらも再編されていく二種族の絆が教えてくれたように思います。
乾と野風にはじまり、沫、垂、斑、細、新、六出、磊落、栗花落。野火と宵越を支える一角狼や人のひとりひとりが、私の頭のなかで鮮明な輪郭を持ち、呼吸していました。秋霖や迅汰も道が重ならなかっただけでそれぞれの志があるのだと、知れば知るほど憎めなくなり……まみえる敵として非常に魅力的で、幕引きのかたちには胸に迫るものがありました。
優しく力強い筆致で紡がれる世界からは、獣の匂いや大地を駆ける一角狼の足音、明けゆく空がこぼす光までもが届きます。
出会えたことに感謝を。
この先何度でも読み返したい作品です。