人類キルカウンターを減らさないで
ちびまるフォイ
くらえ!神のいかづち!
ある日、空には大きな数字が表示されていた。
999,999,999...
『地球の皆さん、私は神様です。
空に出ている数字はあなたち人間が殺す生物の数です。
これが0になったとき、神の鉄槌で人間を皆殺しにします』
人々は脳内に響く声に驚き恐怖した。
なにせ、今こうして話している間にもカウンタが減っている。
まるで死刑までの秒数のようにぐんぐん減っていく。
『1年後、このカウンタが0かどうかを確かめに来ます。
それまであなた達人間がこの数を使い切らないことを祈ります』
それきりで神の言葉は途絶えた。
全人類に同時に届いたその声を疑うものもいたが、
各国のえらい人たちはすぐに会議を開いた。
「あのカウンタの数字を減らすわけにいかない!」
「今こそ手を取り合って、動物を殺さないようにするんだ!」
「それではお手を拝借。よぉ~~!」
一本締めでまとまった世界の会合により、
歴史始まって以来のスピードで「殺りく禁止法」が全世界にしかれた。
「これでもう安心だな」
と思っていたが、カウンタのスピードはまるで衰えていない。
「そんなルールありましたか?」とでも言いたげな速度。
「おいおいどうなってる! 全然収まってないぞ!」
「すぐに各国の様子を調べろ!」
「そもそもルール知らないんじゃないか!?」
各国の代表者はすぐに自国の調査へ向かった。
「おい、君! 殺りく禁止法を知らないのか!
どうして食肉工場を続けているんだ!」
「オラの仕事だからに決まってるっペ。
これができなきゃ、オラはおまんま食えねぇで死んじまうど」
「お前ごとき人間がひとり死んだほうが
お前に殺された何万頭の豚たちよりも数はマシだ!」
「どうしてオラだけ捕まえるんだべ!
他の農家の奴らも勝手にやってるべよ! おかしいべ!」
殺りく禁止法で食肉は禁止されたが、
根強い肉食系男子の要望もあって根絶することはできなかった。
それどころか、闇肉が出回ってしまいメルカリで高額出品されていた。
「ダメだ……いくら禁止しても、法律を浸透させても、まるで止めようとしない。
これじゃまるで依存症患者を扱っているみたいな気分だ」
「もっと罰則を厳しくするしかないか」
「しかし、これ以上厳しい罰則となると死刑しかなくなる。
動物を殺すのを止めても人間を殺しては、カウンタが減ってしまうぞ」
代表者たちは頭を悩ませた。
いくら摘発したところでいたちごっこになってしまう。
そうこうしているうちにもカウンタは減っていく。
「ダメだ! 殺りく禁止しても、宗教戦争は止まらない!」
「こっちは放っておいたら自殺が後を立たない!」
「クソ! 密猟者はどうしてこんなに湧いてくるんだ!」
誰もが空に浮かぶ「殺りくカウンタ」を知っていても、コレまでの生活を帰ることはなかった。
桁数が大きいことで自分の責任感をあいまいにさせる。
誰もがさじを投げた時、変化が起きた。
ある日、空に表示されていたカウンタが消えていた。
「消えてる! カウンタが消えているぞ!」
「いったいどうして!? まだあんなに数は残っていたのに!」
カウンタが消えたことで「解放された」と楽観的に考える人はいなかった。
なにせ「1年後アイルビーバック」と神様が約束した以上、
カウンタは非表示になってしまっただけだと誰もがわかった。
「どうしよう……実はもうめちゃくちゃ減っていたら……」
「最後に見たときはどれぐらい残ってたんだよ!」
「ちょっと! もう絶対に動物殺さないでよ!?」
数字が見えいたことで「まだ余裕ある」と思っていたが、
数字が非表示になったことによる疑心暗鬼の衝撃は大きかった。
「おい、そっちの国の様子はどうだ?」
「こっちでもみんな殺りく自粛ムードだよ」
「いやはや、本当に助かりましたなぁ」
各国の代表者は不幸中の幸いとばかりに汗をハンカチで拭いた。
「で、残りは何匹なんですかな?」
その一言で全員が凍りつく。
実際の数がわからないことには死の覚悟もできない。
「い、一般の奴らには疑心暗鬼で殺りくしなくなったので良いが
我々は正確な数を把握しておいたほうがいいのではないかね」
「というか、もう0だったら、残りの時間を有意義に過ごしたいのだ!」
「有意義って、まさか狩りとかするんじゃないだろうな!?
お前ひとりの都合で勝手に数を減らすんじゃないぞ!」
国の代表者も取り乱して取っ組み合いのケンカとなった。
いくら科学者を動員しても、占い師を使っても、天気予報士を呼んでも。
結局、空に浮かぶカウンタが表示されることはなかった。
1年後。
『地球の皆さん、ごきげんよう。神様です。
1年経ったので結果発表に来ましたよ』
人々はただ祈るしかなかった。
世界規模で「ジャパニーズドゲザ」が行われたのは
後にも先にもこの瞬間だけだった。
『私がカウンタを非表示にしたのがきいたようですね。
それではカウンタをまた表示しましょう』
100,000,000
カウンタの表示を見て人々は歓声をあげた。
『約束通り、人類皆殺しは免除しましょう。
それではまた』
神様はそれだけ言い残して静かに去っていった。
解放された人々は喜んで禁止されていた殺りくを再開し、
1ヶ月後にはすべての生物が死滅し、人間も間もなく滅んだ。
人類キルカウンターを減らさないで ちびまるフォイ @firestorage
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