026  春に眠る命のかたまりⅩ

「あ、いや、そんなに深く考えなくてもいいのよ。ただ……保健室登校は一つの手段だと言いたいだけだから……」


「そうだぞ。俺も自分の気持ちを言ってもいいって言ったんだし、そんなに深く考えなくてもいいんだぞ。まあ、それが本音なら桜ちゃんは普通に学校に通うべきだと思うよ。なぁ、友理奈ゆりな


「ええ、そうね。桜ちゃんが学校に来るだけで特に男子じゃない。物凄く盛り上がるのは……。女子はいつも通りに優しく接してくれると思うけど……」


 小泉は想像しながら苦笑いをする。


「だ、そうだ。桜はどうしたい? 明日からじゃなくてもいい学校は普通に登校してみる気はあるか?」


 俺はさくらに訊く。


「うん……。少しずつだけど行ってみたい」


「よし、それなら決まりだな。女の子には罪はない。全て悪ければ翔のせいにすればいい」


「おい、そこは話が違うだろ……」


「じゃあ、こよみ姉さんを呼ぶぞ……。あー、もしもし、暦姉さん? あ、俺、俺だけど……少し時間ある? うん、そうそう。少し進路について話したいことがあるから駅と病院の通りの間にあるファミレスに来てくれない? そう、あそこだよ。じゃあ、待ってるから……」


「ちょっ、颯太。何かってに暦姉に電話しているんだよ! 俺は話す気は合ってもまだ、その時じゃねぇ―んだよ!」


 勝手に電話をした颯太そうたの胸倉を強く掴み、睨みつける。


「じゃあ、いつ話すんだよ? 今日でも明日でも同じだろ? お前が本気で桜ちゃんの記憶を取り戻したいのなら尚更だ。教師である暦姉さんにでも話しておけ、一日でも早く学校の対処に越したことはないだろ?」


「まあ、それはそうだが……。お前、暦姉がどんな性格か知っているよな? オフの時は……」


 と、言い出す途中で、


「おーい、颯太! って、あれ? 翔に友理奈ちゃん。それと……あれ? うそ……もしかして……さ、桜ちゃんじゃないわよね?」


 暦姉は涙目をしながらそのまま立ったまま感動していた。


 いや、今、この場で泣かれると本当にまずい気がする。


「暦姉、これは……その……一度席に座ろうか? 颯太、そこの席詰めてやれ」


「ほら、暦姉さんこっち、こっち。友理奈、もう少し奥に詰めてくれ」


「もう、面倒くさいわね……」


 小泉は溜息を漏らしながら呆れていた。

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桜の花びらが散る前に ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ @kouta0525

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