025 春に眠る命のかたまりⅨ
四人でゆっくりと一言も何も言わずに食べ終わると、食べ終わった皿を全て取り上げてもらい。新しいコップに飲み物を持ってきて再び重たい空気が流れた。
「…………」
「…………」
お互いがお互いに見つめ合いながら、話し出すタイミングが見つからない。
「翔、それで結局、桜ちゃんをお前はどうしてあげたいんだ?」
「確かに少しずつではあるがさっきも言った通り、学校には行かせてあげたいと思っている。でも、問題なのは、こいつが内心どう思っているのかが分からない。前みたいに自分の事を話してくれるとは限らないし、それにまだ、暦姉にもこの事を言っていないんだよな」
俺は肘をテーブルにつきながら額に手を当てて、悩みに悩んでいる。
「ねぇ、それならまずは保健室登校からって言うのはどうかしら?」
「保健室登校? それって学校に登校、つまり、それは出席になったりするのか?」
俺は小泉の言葉にあたふたしながら「保健室」というワードに戸惑ってしまう。
「なるわよ。あんた、そんな事も知らなかったの? 体が健康な奴って本当に無神経ね。呆れてものが言えないわ」
「悪かったな。この十数年の間で保健室に入ったことはあるが保健室登校なんてしたことが無かったものでして……」
「それ、私を馬鹿にしているの?」
小泉は睨みつけながら不服そうに言う。
「ああ、悪い。そうだな。馬鹿になどしていない。だが、保健室登校よりもクラスの奴らの顔を見せた方が変わるかもしれないからな……」
「なあ、桜ちゃん。翔に訊くよりも桜ちゃんに訊いた方が早いんだが……桜ちゃんはどうしたいんだい? 翔はぶっちゃけ言えば、不器用な奴なんだ。考えれば考えるほど空回りして、結局はいつも桜ちゃんがその尻拭いをしている。自分の意見ははっきりと言うといいよ。じゃなかったら、これからの人生、こいつのせいで終わっていくからな」
颯太は余計な一言を多く言って、桜に変な事を吹き込む。
「颯太、一言余計だ」
俺は人差し指で指しながら自分のジュースをストローに通して飲む。
まあ、あながち間違ってはいないがそれを今の桜に言ってどうなる。ただ混乱させるだけだ。
「わ、私は……」
桜を震えた唇と開き、
「私は記憶をなくす前の自分がど、どんなだったのか知り……たい…です……」
初めて桜が自分の口から自分の意見を言った。
今まで無口だった彼女がこんな事を言いだすのは一体どういった変化なのだろうか。とにかく、そのまま桜の話をしっかりと聞く。
「私には記憶がありません。あなた達が私にとってどういう人達だったのかも知りません。しかし、私はこれから先どうすればよろしかったのでしょうか? そこには私の入る場所があるのかも分かりません……」
桜はまた黙り込んでしまい、頬を赤くしていた。
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