LOST
白木 咲夏
第1話 日々
応援要請が入ったのは、昼頃、私が読書をしている時だった。
動きが早いLOSTのため、私のブラックボックスが適任だろうという判断らしい。
特段断る理由もなかったので、すぐに向かう旨を伝える。
共闘者はそれぞれ『治癒』『能力拡張』『敵意集中』の能力を持った人達だということだった。
加えて『能力拡張』の所有者については見知った人物である。
ブラックボックスの名称は『
幸か不幸か、今回の戦地はここから近い。
走れば十分で着きそうだ。
風を切りつつ、戦いのシミュレーションをする。
私は、ひとまず奴の動きを止めさえすれば御役御免だ。
もし追いつけない場合は、顔見知りの『
動きが複雑ならば『敵意集中』に頼るのもいいかもしれない。
足止めをした後は、支給品の武器で無力化すればいいだろう。
回復は『治癒』の人に一任だ。
そうしているうち、あのおぞましい化け物が視認できるようになる。
なるほど、確かに今までに見たどれよりも移動速度が早い。
LOSTが追っている人物は、きっと『敵意集中』の人だろう。
確かブラックボックスの名前は『
それなりの時間LOSTを引きつけていたのだろう、足取りが少しおぼつかなくなっている。
「
「うん!」
駆け寄った彼に返事をしたのは、驚くべきことに、小学生になるかならないか程度の女の子だった。
「回復」という単語からするに、あの女の子がブラックボックス『
あんなに小さい子が?と思ったが、今はそんな事を考えている状況ではない。
『認証、ブラックボックス展開』
――デバイスの人工音声が、戦闘開始を告げる。
さあ、こちらの番だ。
「こちら応援の
作戦を伝えるべく、物陰に身を潜めてから無線で挨拶をする。
「こちら
「こちら
「こちら
他の人とはうって変わり、シチュエーションに不釣り合いなほどにあっさりと緊張感のない声を返してきた彼こそ、あの『
常にマイペースで、歯に衣を着せない物言いと、いつまでも私のことを覚えてくれないのとで、否が応でも印象に残っている人物である。
「お久しぶりです、天宮さん」
「おひ……?君新人さんじゃないの?」
「いえ。以前、
お会いするのはこれで三度目ですが」
「あー、君あの時の子か。ごめんごめん、まず君の名前あいつと一文字ないだけでややこしいしさ……」
悪いと思っているのかいないのか、彼は軽い謝罪を返しただけだった。
「天宮さん。早速ですが、私を抱えてあれの側まで近づけますか?一瞬でいいんです」
しかし、今はゆっくり名前を覚えてもらう場合ではないので、すぐに指示を出す。
「いけると思うけど、どう抱えたらいいんだ」
「安定していて、両手が空けば何でも」
「よし。じゃあおぶってやるから、史料館裏まで来れるか」
「はい。
こちら三洲。今からブラックボックスを行使し、天宮さんとLOSTの静止を試みます」
「こちら一条、了解」
「こちら白川、りょうかい」
全員の応答を聞きながら周りを確認して、LOSTを警戒しつつ指定された場所へ駆け出す。
「天宮さん!」
「おっ来たな、ほら乗れ」
辿り着くと、天宮さんは私に背中を向けてかがんだ。
「はい。失礼します」
おぶさり、両肩に腕を回す。
「よし、乗ったか?」
「ええ、大丈夫です」
私が頷くと
「っしゃ、しっかり掴まってろよ!
天宮さんは叫び、勢いよく跳躍した。
「
十分な高度が取れたあたりで対象をしっかりと見つめ、ブラックボックスのコード名を口にする。
「そろそろ落ちるぞ!」
「はい!」
降下し、一気に接近したところで数秒触れれば、もう相手は私の手の中だ。
「やったか……!?」
「はい、おそらくは。ありがとうございました」
背中から降りて振り返ると、目に見えてLOSTのスピードが落ちてきているのが分かる。成功だ。
あの大きさなら、あと十秒もしないうちに動きは止まるだろう。
「こちら三洲、只今、LOSTの動作停止に成功しました」
「こちら一条、了解。今後の作戦は」
「こちら三洲、LOSTが動くことはおそらくもうありませんので、引きつけは不要になります。あとは無力化に集中で問題ないかと」
「こちら一条、了解した。
影刀で無力化する」
『
きっと、ようやく肩の荷が下りた気分だろう。
「こちら三洲、了解しました」
私も少し胸を撫で下ろし、一条さんに返した。
少し間をおいて、LOSTが消滅する。
「こちら一条。LOSTの反応消失を確認」
「こちら天宮、了ー解」
「こちら白川!りょうかい!おつかれさま!」
「こちら三洲、確認しました。お疲れ様です」
無線を交わし、安堵の息をつく。
今回もやりきった。私達の勝利だ。
LOST 白木 咲夏 @Saika-Shiraki
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