第61話 眠りの姫に口付けを
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暗い階段を下りる度、元より散らかった部屋の内部に満ちていた甘い匂いがその濃さを増して行く。あまりに強い匂いにトキは咳き込み、ストールを引き上げて顔を顰めた。
(くそ、何だこの匂い……!)
強すぎる香りが鼻孔を突き刺すようだ。毒やガスの類ではなさそうだが、階段を降りて行くに連れ徐々に香りが強くなっている。
トキが舌を打った頃、ようやく彼は階段を降りきった。地下に広がっていたのは、真っ暗な闇。どこからともなく、水を引いているような水流の音も耳に届く。
ぴちゃ、ぴちゃ、と歩く度に水の跳ねる音が足元で響く中、トキは目を凝らして周囲を見渡した。
(……何かある……花か?)
闇に慣れた目で確認出来たのは、おそらくローゼリアの花だった。どうやらここにローゼリアを植えて生育していたらしい。──しかし、あまりにも匂いがキツすぎる。
(これ、ローゼリアの匂いなのか……!? こんな甘ったるい匂いじゃなかっただろ……! しかも花の色も違う気がする……形が似てるだけで別の花なのか……?)
訝しみながら目を凝らすが、いくら闇に慣れているとは言えこうも暗くては視覚で判断するのも限界がある。トキは小さく舌を打ち、「仕方ねえ……」と右手の中指に嵌めた指輪にそっと触れた。
「……おい、ドグマ。出てこい」
呼びかければ、彼の指輪がカッと光る。
直後にふわりと飛び出してきた火の玉は、周囲を青い光で照らしながら不服げに声を発した。
「……気に入らんな。偉大な魔女である我を、明かり代わりに呼び出すとは。後で十発程度殴ってやるからな、覚悟しろよ小僧」
「大変申し訳ございません、緊急事態なんで少し黙っててくれませんかドグマ様」
淡々と声を発してドグマをあしらい、トキは明かりを得た視覚で目の前の花を見つめる。──やはりそれはローゼリアの花だったが、開いている花弁の色は“白”ではなく、“赤”だった。
(……やはり、色が違う……。どういう事だ? あの白いローゼリアの蕾はどこから来た?)
眉を顰め、開いた花弁に触れながら注意深くそれを観察する。しかしふと、「おい、小僧」とドグマが声を発した事で彼は振り向いた。
「……何だ?」
「足元を見てみろ」
鋭い声で言うドグマの声に従い、トキは自身の足元に視線を写す。──そして、彼は目を見開いた。
「……!」
「──血だ」
トキの足元に広がっていたのは、真っ赤な血溜まり。ハッと顔を上げて周囲を見渡せば、壁や床には夥しい量の血の痕が残っていた。
水の引かれた水路の中にまで真っ赤な血が広がり、ローゼリアの根が真っ赤に色付いたその水を吸い上げている。一体誰の──と考えた瞬間、セシリアの微笑みが脳裏に過ってトキの顔からは即座に血の気が引いて行った。
「……っ」
「……ふむ、この血からは強い魔力を感じる。それからこの血を吸い上げている花からもな。どうやら血を吸って花が赤く色付いてるらしいが……この魔力、おそらくあの娘の魔力だ」
「……っ、はぁ……っはあ……っ!!」
「……あ!? おい、この
セシリアの血だと認識した途端に呼吸を荒らげながら震え始めたトキを怒鳴りつけ、ドグマは彼の周りを飛び回る。トキは呼吸を乱してガタガタと震えながらも、嘔吐してしまいそうな口元を押さえ、何とか正気を保っていた。
アルマとの戦闘の際にナイフで首元を裂き、真っ赤な血を飛散させながら崖下へと落ちて行ったセシリアの映像が脳裏に流れ込み、トキは思い出したくもない光景に歯を食いしばる。
「……っ……くそ……!!」
「さっさと動かんか、この腑抜け。あの娘はまだ死んだ訳では無い。微力ではあるが、この奥の部屋から娘の魔力を感じる」
「……!」
「……だが、急いだ方が良いぞ。魔力の反応が随分と弱い。このままだと本当に死ぬかもしれん」
「この奥にセシリアが居るんだな!?」
トキは顔を上げ、即座に血溜まりを蹴って駆け出した。しかし「おい待て、この間抜け」と走り始めた彼をドグマが呼び止める。
「一つ忘れておるぞ、大事な物をな」
「……!」
呼び止めたドグマがふわりと暗闇を舞い、特に
「……俺の……、
震える声がこぼれ落ちる。真っ赤に染まる祭壇上、血の滴る赤い刃先に青い火の玉の光を反射させているのは、見紛うはずもない己の短剣だった。二本置かれているうちの一本に震える手を伸ばし、紫の宝石が埋め込まれたそれを持ち上げる。
どろりと滑り落ちた赤い雫に、トキは表情を歪めた。
「……おい……何だよ、これ……」
「……」
「ふざけてんのか……? 俺の……、俺の短剣で……セシリアを……?」
「……だろうな。あの娘の血だ」
「……何だ、それ……ふざけんな……、ふざけんなよ!!」
ガン! とトキは振り上げた足で血に染まる祭壇を蹴り飛ばす。眉間に深く皺を刻み、瞳孔の開いた血走った目の奥が怒りの色に染まった。
震えるトキの手が、彼女の血の滴る短剣の柄を握りしめる。“師”と称される男から譲り受けた己の短剣でセシリアの肌が引き裂かれたのだと考えると、
「……殺す……! 殺してやる……!!」
「落ち着け、阿呆」
「落ち着けるわけねえだろッ!!」
血走った目でドグマを怒鳴り付け、トキは二本の短剣を即座に手に取った。ドグマは嘆息し、彼の前をふわりと舞う。
「いいから落ち着け。ガキの頃からそうだったが、貴様は頭に血が昇ると周りが見えなくなっていかん。後先考えずに突っ込んで痛い目を見たばかりであろう、この
「……っ」
おそらくドグマはアルマと対峙した際の事を言っているのだと察し、トキは言葉を詰まらせる。しかしこの先でセシリアが血を流して死にかけているのかもしれないと考えてしまうと、冷静に物事を判断する余裕など無かった。
「……説教なら後で聞いてやる」
トキはぼそりと低く声を吐きこぼし、二本の短剣を構えて地面を蹴る。ドグマはやれやれと溜息を吐き、ふわりとトキを追うと指輪の中に消えてしまった。
再び闇に包まれた空間。トキは殺意を帯びた瞳を血走らせたまま、部屋の奥の扉を力任せに蹴り飛ばした。
──バァンッ!!
けたたましい音を響かせ、強引に蹴り開けられた扉の向こうから明かりが差し込む。仄暗い空間をオレンジ色に照らしている燭台の火が揺れる中、トキの血走った目が最奥の壇上に置かれた“硝子の棺”を捉えた。
その中に横たわる、彼女の姿も。
「──セシリア!!」
その名を叫び、トキは壇上へ向かって即座に駆け出した。階段を上がり、硝子の棺に掴みかかって中を覗き込む。そこに横たわるセシリアは青白い顔で真っ赤なローゼリアに囲まれ、静かにその瞳を閉ざしていた。
「おい! セシリア、起きろ!!」
呼び掛けるが、反応はない。
トキは眉根を寄せ、色を失ったセシリアの頬に手を伸ばす。──しかしその頬に触れた瞬間、彼は目を見開いた。
(……硬……っ!?)
触れた彼女の頬が、まるで石のように硬い。いつも感じる暖かな温度もそこには無かった。ただただ冷たく、石像にでもなってしまったかのようにぴくりとも動かない。呼吸の音すら、聞こえない。
「……セシリア……! おい……!」
何度呼び掛けても結果は同じだった。真っ赤なローゼリアに囲まれた彼女は瞳を閉じ、その場に横たわっている。どくどくと、トキの胸が嫌な音を刻み始めた。
──なんだ、これは。
本当にセシリアなのか。
あまりにも無機質で冷たい、生気のない彼女の姿にトキは息を飲んで戦慄してしまう。容姿が似ているだけでただの人形なのでは、と都合のいい解釈に結びつけようとしても、目の前で横たわる彼女は紛れも無くセシリア本人で。
「……セシリア……っ!」
縋るようにトキは彼女に呼び掛ける。──その直後、カツン、と背後で人の気配を感じて彼はハッと顔を上げた。
「無駄だ、セシリアはもう目覚めない」
「──!」
ヒュ、と鈍い風の音が横切る。トキは反射的に身を翻し、振り抜かれた剣の一閃を間一髪で避けた。即座に短剣を構えて睨み付けるトキと目が合い、「ほう」と興味深そうに剣を構えた男──マルクが口角を上げる。
「俺の一太刀を避けるか。全く腕の立たない雑魚という訳では無いようだな、ドブネズミ」
「……テメェ……ッ」
憎しみを孕んだトキの双眸がギロリと持ち上がる。マルクは怯む様子も無く剣を構え、「美しいだろ?」と愛おしげにセシリアを見つめた。
「ようやく俺の物になったんだ。この日をどれだけ待ち侘びた事か。セシリアがこの地を離れた時には一度諦めたが、神は俺を見放さなかった」
「このクソ野郎!! コイツに何した!!」
トキが声を荒らげる。マルクは彼を鼻で笑い、棺の周囲を囲うように咲いているローゼリアの花弁をそっと撫でた。
「……何って、眠って貰っただけさ。永遠にな」
「……何……!?」
「ローゼリアを特殊な方法で育てた。長期間陽の光に当てず、綺麗な水と定期的に“血”を与えるんだ。そうすると毒の制度が高まり、その毒を与えれば細胞の活動すらも止める事が出来る。ローゼリアに血を蓄え、その花で胸を貫き、蓄えた血液を再び体内に戻す事で……彼女の全てを眠らせることが出来るんだ」
「……!」
「コールドスリープ……みたいなものさ。歳も取らせず、生きた状態で、永遠に眠り続ける。──俺の知ってる、俺が愛した、“セシリア”のまま」
マルクはコツコツとブーツを踏み鳴らしながら棺に近付き、硬く冷たいセシリアの頬を撫でた。その瞬間トキは地面を蹴り、構えた短剣をマルクに向かって振り下ろす。マルクは冷静にそれを避け、数歩後退した。
「……汚ねえ手でコイツに触んな」
低音をこぼし、トキはマルクを睨み付ける。マルクもまた暗い瞳でトキを睨み、口を開いた。
「……汚いのは貴様だろ? セシリアも随分と悪い虫を引っ掛けたものだな。よりによって貴様のような碌でもない男に、清らかな彼女の唇を奪われる事になるとは」
「……」
「喜べ、ネズミ。セシリアが泣いて貴様の名前を呼ぶものだから、仕方無くその薄汚い短剣を使ってやったんだ。よく斬れる刃で助かったぞ、セシリアは泣き叫んでいたがな」
「……っ!」
マルクの言葉に、トキの眉間が深く皺を刻む。考えるよりも先に「テメェ!!」と怒鳴り付け、トキは短剣を構えてマルクに襲い掛かった。
ガキンッ、と金属質な音を響かせ、剣先が交わる。
「このゲス野郎!! 殺してやる!!」
「こっちの台詞だドブネズミ。目障りなんだよ、死ね」
殺意に満ちた視線同士がぶつかり、剣が弾かれてまた即座に交わった。ギリギリと音を立てて刃先が擦れ合う中、トキは右手に持っていたもう一本の短剣を振り上げる。
しかしマルクは長い剣をスライドさせて攻撃を遮り、トキの足元を掬うように蹴り飛ばした。
「……っ」
ガクッ、と一瞬力が抜け、トキの膝が曲がる。間髪入れずに剣が振り下ろされるが、彼は二本の短剣をクロスさせて剣先を阻み、弾き返して即座に後退した。
チッ、とトキは舌を打ち、涼しい表情で剣を構えているマルクを睨み付ける。
(……くそ、
仮にも、相手は正式な訓練を詰んだ聖騎士だ。ドブ川の
苦々しく表情を歪めながらトキは立ち上がり、再びマルクを睨み付ける。マルクは余裕の表情を崩さず、フッと口角を上げた。
「……やはり、たかが賊のお遊び剣技か。俺とセシリアの居場所を突き止めた事は褒めてやってもいいが、剣の相手をするには物足りないな」
「……っ」
「興醒めだ。さっさと終わらせよう」
マルクは小さく息を吐くと剣を構え、地面を蹴って一気にトキとの距離を詰めた。一瞬で間合いを詰められ、トキはまずい、と目を見開きつつ彼の攻撃を短剣で防ぐ。ガキン! と豪快に音を発して何とか攻撃を弾いたが、すぐさまマルクはトキに剣を振り下ろした。
──ブシュッ!
「──っ!!」
左肩から肋骨に至るまでを剣先がなぞり、衣服を裂いて真っ赤な血飛沫が飛散する。咄嗟に身を翻し、彼の攻撃範囲から逃れようとするトキだったが、それをマルクが許さない。
(……くそ……!!)
再び剣先が体を掠め、トキは痛む左肩を必死に動かしてマルクの攻撃を弾いた。しかしやはり攻撃を防ぐのが精一杯で、怒涛の乱撃に為す術もない。
そしてとうとう、右手に構えていたトキの短剣は弾き飛ばされてしまった。
「……!」
「もう一本も要らないな」
弾かれた短剣に気を取られている間に、左手に構えていた短剣も弾き飛ばされてしまう。カランカラン、と床の上を滑る師の短剣。じわりと手の平に浮かび上がった汗を握り締めた瞬間、トキの喉元には剣先が突き付けられた。
「……っ」
「次の俺の一太刀、避けるなよ。避けたら後ろのセシリアが真っ二つだからな」
「……!!」
楽しげに笑うマルクの言葉に目を見張り、トキは背後にちらりと視線を向けた。そこには瞼を閉じて眠るセシリアが横たわっており、トキが攻撃を避けると確実に当たってしまう。棺の中に居るとはいえ、彼女が傷付かない保証は無かった。
「……テメェ……!」
追い詰められたトキは苦々しく表情を歪め、マルクを睨んだ。しかし無常にも剣は振り上げられ、トキは舌を打って右手の中指に触れる。
(……頼むぞ、ドグマ……!)
指輪に魔力を篭め、呼び掛ける。しかし彼の〈
──ガキィン!!
「──!!」
振り下ろされた剣を、横から割り込んだ別の剣が阻む。トキとマルクは目を見開き、マルクの剣を弾き返した人物に顔を向けた。
「──何をしているんだ、マルク!!」
「……ジーン……!」
トキに振り下ろされた剣を受け止め、弾き返したのはマルクと同じ聖騎士団の男、ジーンだった。彼は鋭い目でマルクを睨み、長い剣を携えてトキの前に立ちはだかる。
「セシリア様と一緒にお前の姿も見えないと思って探しに来てみれば……! こんな所で何をしている!? セシリア様に何をした!?」
「……ふん。お前なら分かるだろう、ジーン。セシリアを眠らせた。彼女を守るためにな」
「……! マルク、お前……っ!」
ジーンは目を見開き、マルクに剣を向けたまま表情を歪める。すると彼らの背後から、野太い男の声が割り込んで来た。
「……マルク。お前ずっと、教会の地下でこんな事をやっていたのか……?」
現れたのは、聖騎士長──ガノン。彼は眉根を寄せ、横たわるセシリアを悲痛な表情で見つめている。
「……ガノン騎士長までお見えでしたか。お見苦しいものをお見せして大変申し訳ありません」
ジーンが現れた事で彼の存在も察知していたのか、マルクはガノンの登場にも冷静に言葉を返した。ガノンはやれやれと溜息をこぼし、まっすぐとマルクに視線を向ける。
「……マルク、お前の気持ちも分からなくはない。ずっとセシリア様を大切に想っていただろう。彼女を守りたい気持ちは、我々も痛いほど分かるのだ」
「……」
「……だが、これは少し違うだろう?」
「だったらどうしろと言うのです」
マルクは冷たく言葉を返した。睨むジーンと剣を交えたまま、彼は暗い双眸をゆらりと持ち上げる。
「これしか無い。これ以外にセシリアを守る方法がない。俺だってこんな事本当はしたくない。でも、他に方法が無いんだ」
「……マルク……」
「彼女の真実を知ったあの日から、俺は必死になって調べた。文献を読み漁って、実験を繰り返して、ずっと探した! セシリアを救う方法を!! そしてやっと見つけ出したんだ!!」
マルクは怒鳴り、眉根を寄せて表情を歪めた。彼は暗い双眸を伏せ、ぽつりと言葉を続ける。
「これでいい。これでいいんだ……。例えもう二度と、セシリアが笑いかけてくれなくても……俺は彼女が傍に居てくれればそれで──」
そこまで彼が続けた時、ふとマルクの顔に暗い影が差す。ハッ、とマルクが目を見開いた瞬間、重たい拳が彼の右頬を殴り飛ばした。
──バキィッ!!
「……っぐ……!」
殴られたマルクはふらりとよろけ、数歩後ずさってその場に膝を付く。ややあって恨めしげに睨んだ視線の先では、瞳の奥に怒りを滲ませたトキが眉間に深く皺を寄せて立ち尽くしていた。
「……ふざけんじゃねえよ……そんなもん全部テメェの勝手な都合だろうが……」
「……っ、貴様……!」
「俺は要らねえ。笑いも泣きも怒りもしない、そんなアイツなんか要らねえよ。だってそんなもん、」
ギロリとマルクを睨み、トキは怒りを孕んだ声を吐きこぼす。
「──死んでんのと同じだろ」
「……!」
トキの言葉にマルクは奥の歯をギリッと噛み締めた。忌々しげに眉根を寄せ、「何が分かる……」と彼は声をこぼす。
「……貴様に……何も知らない貴様に! セシリアの何が分かるって言うんだ!! 知ったような口を叩くなッ!!」
「あいつの事情なんか何も知らねえよ」
トキはぽつりと漏らし、踵を返した。そのままセシリアの眠る棺の傍に近付き、静かに目を閉じている彼女の顔を覗き込む。
「……でも、テメェらも知らねえだろ」
「……っ」
「──コイツが、意外と強いって事」
トキは不敵に口角を上げ、眠っているセシリアの頬を指先で撫でるとそっと顔を近付ける。「なあ、」と彼女の耳元に囁き掛けるが、反応はない。
「……そうだろ、セシリア」
「……」
「アンタ、意外と頑固だからな。俺との誓い、守るために戻ってくるだろ」
二人で交わした、あの日の誓い。
トキがセシリアから女神の涙を奪い、セシリアはトキの呪いを解く。果たせる保証も何も無い、口約束だけのその誓いを──彼女はきっと果たしてくれる。
深い眠りの中に居るセシリアの頬を撫で、トキはフッと小さく微笑んだ。──おとぎ話の中では、王子がキスをすれば姫は目覚めるんだったか。そんならしくもない考えが浮かび、トキは彼女に向かって口を開く。
「……セシリア、」
──俺は、王子なんかじゃない。そんなもん柄じゃない。だけど、ただ。
「……俺は、アンタの事を──」
──信じてるから。
必ず彼女は目を覚ます。そんな、何の根拠も無い馬鹿馬鹿しい夢物語を信じて。
トキは冷たくなったセシリアの唇にゆっくりと、自らの唇を重ねたのだった。
.
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