第8話 聖女の祈り(※2019/09/20内容修正)


 1




 ろくでもない生き方をして来た。

 汚いことだと分かっていても平気で手を染めた。


 とは言っても、最初から全部汚かったわけではない。少なからず生まれて暫くはきっと幸せだったんだろうと思う。けれどその小さな幸福すら無くしてしまって、素直な笑い方などとうに忘れた。


 だからこそ目に付いてしまうのだろうか。その純粋な笑顔とか、言葉とか、汚れたものを知らない無知な彼女のことが。



 その無垢な笑顔を、よごしたくなってしまうのだろうか。




「……い、や……!」



 取り去ったローブを後方に投げ、真っ白なワンピースを胸元までたくしあげる。ほとんど下着姿と変わらない格好になってしまったセシリアは頬を赤く染め、その手から逃れようと身をよじるが男に力で適うはずもない。



「そんな暴れんなよ、俺は酷いことしないんだろ?」


「……や……っやめてください、トキさん……っこんなの、」


「いいからもう黙ってろ」



 ──そしたら、いい夢見せてやるよ。


 不敵に笑みを描きながら耳元で囁き、真っ赤に染まった耳に甘噛みする。びくっ、と身を震わせ、セシリアは固く瞳を閉じた。



「……や……っ」


「へえ、耳弱いんだな、アンタ」


「あ……ぅ……っ」



 ぬるり、耳の中や裏をなぞる舌の動きにぞくぞくと背筋が痺れてしまう。耳元に響くいやらしい音から逃げるようにぎゅっと目を閉じて耐えていると、不意に彼の手がセシリアの白い素肌の上を滑った。



「……っやだ、だめ……っ」


「うるさい」



 抵抗する彼女の声を無視し、下着のカップの中に手を滑らせる。控えめに膨らんだ柔らかい感触を手の中に収め、やや乱暴に揉みしだけば羞恥心からかセシリアの瞳に涙が浮かんだ。



「……いや……っ」


「……」



 頬を染め、固く両目を閉じ、必死に首を振って嫌がる無垢な少女を押し倒している様を客観的に想像すればぞくりと背徳感が押し寄せる。思ったよりも飢えている自分の本能に舌打ちしたい気分になりながら、八つ当たりのように目の前の白い胸元に歯を立てた。



「……ん……!」


「……イヤイヤ言いながら反応しやがって。実は期待してたのか? こういうこと」


「……ち、違いま、っ……!」



 否定するセシリアだが、説得力などない。鼻で笑い飛ばし、手に収めていた膨らみの頂点を指で摘めば彼女からは一際高い声が上がった。羞恥心によって目を潤ませたセシリアは頬を真っ赤に染め、声を押し殺そうと唇を噛む。しかしそんな抵抗など可愛いものだ。



「違うって? そんな反応しといて説得力あると思ってるのか聖女様」


「……はあ……っお願い、もう、やめ……」


「それは無理な話だな」



 ──俺は腹が減ってるんでね。


 耳元で囁いて再び愛撫を続行する。首に巻いていた藍色のストールを外し、彼女の胸元を隠していた下着を上にずらせば控えめな胸元の全貌が姿を現した。

 セシリアはふるりと体を震わせ、泣き出しそうな表情でトキを見つめる。──ああ、自分は今、とてつもなく悪い事をしている。そう自覚せざるを得ない彼女の表情に、少しだけ頭が冷静さを取り戻した。



(何をしているんだ、俺は)



 これでは完全に八つ当たりだ。朝からむしゃくしゃして落ち着かない頭の中を整理する事を諦めて、偶然転がり込んで捕まえた哀れな羊を食い殺そうとしているだけだ。

 頭では分かっている。こんな事してどうするんだ。──しかしもう、頭で考えて止まるようなボーダーラインはとっくに越えてしまっている。


 動きを止めたまま黙って目の前の白い肌を見つめるトキに、セシリアは震える声を絞り出した。



「……見、ない、で……っ」


「……」



 息を荒らげ、紅潮させた頬で。やめて、見ないでと懇願するその言葉すら、こちらを煽る材料だとなぜ分からないのか。



「……見ないなんて、無理だろ」



 掠れた声で呟き、トキは控えめに膨らんだその丘にかぶりつこうと口を開いた。──しかしその瞬間、鼓膜を揺らした微かな物音によって今にも千切れそうだった理性が覚醒し、彼は目を見開く。



「……っ!」



 弾かれたようにセシリアの体から離れ、彼は耳を済ました。のしかかっていた重みが離れたことで彼女もまた戸惑いがちに目を開けば、トキは上体を起こしたまま鋭い目で後方の扉を睨んでおり──ややあって、チッと舌を打つ。


 すぐさまその場に立ち上がった彼は自身が組み敷いていたセシリアの体を起こすと、はだけていた衣服を元に戻し、放り投げていたローブを拾って彼女の肩に掛けた。



「残念だが、遊びはここでしまいだ」



 神妙な面持ちでそう宣言され、昂っていた熱が静かにその温度を落として行く。何が何だか分からない、という表情で目を泳がせるセシリアに荷物を預け、彼はそっと耳打ちした。



「……ここに隠れてろ。出てくるなよ」



 え、と不安げに顔を上げたセシリアをその場に残し、トキは短剣を構えて扉に近付いていく。そして彼は鍵を開け、一気に扉を蹴り開けた。


 ──バァン!



「うわあッ!?」


「くそ、見つかったか!!」



 どよめく宿の通路内。蹴り開けた扉の前では、各々武器を構えた村人達が複数人待ち構えていた。見えているだけでも十人程度、おそらく店の外にまだ複数待ち構えているだろう。

 トキは短剣を構え、口を開く。



「人の情事をコソコソ盗み聞きとは、この村の住人は随分といい教育を受けてるらしいな」



 は、と薄ら笑いを浮かべれば村人達は目付きを鋭くさせてこちらを睨んだ。睨み付けたいのはこっちの方だ、とトキは嘆息する。──折角のお楽しみを邪魔しやがって。



「……で? 何の用だ村人さん方。歓迎の挨拶にしちゃ、随分と物騒じゃないか?」


「とぼけてんじゃねえ! 魔女の使いめ!」



 軽口を叩くと村人の一人が険しい顔付きで怒鳴った。聞き捨てならない台詞にトキが眉間を寄せる。



「……はあ?」


「お前らだろ!? 俺たちの村の家畜を獣共に襲わせてんのは!」


「魔女の使いだ! とうとう俺達の生活まで奪いに来たに違いねえ!」


「……」



 全く話の見えない村人達の主張に、トキは溜息をこぼした。何やら随分と誤解されているらしい。



「おい、アンタ達なんか誤解してるぞ。何で俺達が魔女の使いなんだ」


「言い逃れしようったって無駄だ! お前らデカい魔物を連れていただろ!」


「!」



 トキは目を見開き──やがて苦々しく舌打ちする。魔物というのは、どう考えてもアデルのことだ。おそらく村に入る前、アデルと話しているところを村人に見られてしまったのだろう。

 なるほど、とトキは納得した。それで魔女の使いか。



(面倒だな……)



 いくら弁明したところで聞き入れてくれそうにない。

 強行突破で逃げ去るしかないか、と短剣を持ち直したその時、後方から悲鳴が響き渡った。



「きゃああ!!」


「……!」



 響いた悲鳴はセシリアのもので、トキはバッと背後に視線を向ける。すると複数の村人に押さえ込まれ、部屋から引きずり出された彼女の姿が視界に飛び込んできた。

 彼等の先頭には先ほどカウンターで受付をしていた老婆が立っており、嗄れた笑い声がその場に響く。



「くくく、この部屋は一見密室に見えるが、実は隠し通路があったのさ。少し詰めが甘かったねえ、坊や」


「……っ、このババア……!」



 ギリ、と奥歯を噛み締めたその時、ふとトキの視界に影が差した。彼は目を見開き、即座に振り返る。



(しまっ……!)



 ──しまった、と思った頃には、もう遅い。

 硬い棒状の物で強く頭を殴られ、トキの体からは一気に力が抜けた。がくっと彼が床に膝を付いた瞬間、堰を切ったかのように村人達が次々と殴りかかってくる。



「トキさん!!」



 ガンガンと全身に鈍い痛みが走る中、自分の名を呼ぶ悲鳴のような声が脳裏に響いた。遠のく意識の中で薄く開いた目に映ったのは、瞳一杯に涙を溜めてこちらを見つめるセシリアの顔で。



「やめて! お願いです、その人に乱暴しないで!」


「うるっせえ! 魔女の仲間は黙ってろ!」



 ──バキッ!


 頬を殴られ、セシリアの体は真横に吹っ飛んだ。そのまま床に倒れ、ぴくりとも動かなくなってしまった彼女に男達が歩み寄って行く。

 トキは奥歯を噛み、セシリアの元へと手を伸ばした。しかし、その手が彼女に届くことは無くて。


 ──ガンッ!



「──っ!」



 再び後頭部を強く殴られ、視界が暗転する。

 とうとうトキの意識は、暗い闇の底へと沈んで行った。




 2




 ぽた、ぽた、と近くで水滴の落ちる音がする。


 雨漏りの音か、それとも緩んだ蛇口から落ちる雫の音なのか。確かめようにも体が随分と重く感じて、固く閉じた瞼が持ち上がらない。


 ぽた、ぽた。


 また近くで水滴が落ちて、手のひらが濡れた。これは雨粒の落ちる音か。それとも、ただの水の音なのか。



 ──いいえ、血の滴る音でしょう?



 耳元でそんな声が囁いた気がして──トキはハッと目を覚ました。

 すると目の前にあったのは、酷く表情を歪ませた聖女様の顔で。



「トキさん!!」


「…………」



 随分と聞き慣れてきた高い声が耳の奥に突き刺さる。そんなに大声を出さなくても聞こえてる──と嫌味を返そうとしたトキだったが、両目から滑り落ちる大粒の涙が視界に入って、彼はぎょっと息を飲んだ。



「……トキさん、う、良かっ、えぐ……」


「──……何、」



 してるんだ、と続けようと口を開いた瞬間、突如両手を広げて抱きしめられた。その優しすぎる温もりに喉から出掛けていた言葉は引っ込んでしまい、息すらも忘れて震える彼女の体温を感じるばかり。

 セシリアは震える両手でトキの体を抱き締め、良かった、良かった、と泣きじゃくっている。──悪い夢を見たはずなのに、それすらどうでも良く思えてしまうほど、その体温が優しすぎて。



「……っ」



 つい、目頭が熱くなった。理由は分からない。

 トキは慌てて目を擦り、引っ付いているセシリアの体を引き剥がす。



「……重いんだよ、バカ!」


「……うう……っ、ご、ごめんなさ、」



 未だにぼろぼろと涙を落としている彼女にトキは溜息をこぼし、真っ赤に腫れた目元を衣服の袖で乱雑に拭った。ひくっ、ひくっ、としゃくり上げる彼女の涙を何とか止め、トキは重たい体を持ち上げる。



「いっ……!」


「……っむ、無理しないでください! まだ怪我が……!」


「……怪我……?」



 そう言われて、彼はようやく意識が途切れる前のことを思い出した。そうだ、宿屋で村人共に襲撃されて──とそこまで思い出し、辺りを見渡す。石造りの頑丈そうな壁、自分達を囲む鉄格子。なるほど、ここは牢屋か、と今現在二人が置かれている状況を何となく理解する。



「……くそ、酷い気分だ」



 再び彼は壁際に腰を下ろす。後頭部付近に手を触れると、ちょっとしたタンコブは確認出来たがそこまで酷い怪我はしていないようだった。



「……随分殴られた気がするんだが、思ったより怪我が軽いな」


「何言ってるんですか、とんでもない怪我でしたよ!」



 珍しくセシリアが声を荒らげ、トキは思わず目を丸める。彼女は翡翠の瞳を揺らし、そっと顔を逸らした。



「……すごい量の血を流して、ぴくりとも動かなくて……。本当に……、本当に死んでしまったのかと、思いました……」


「……アンタが治療したのか?」


「……」



 こくこくと彼女は頷き、またもや大粒の涙を目尻に浮かべた。しかしそれを流す前に自分の手で拭い取り、彼女は震える唇を噛んで顔を上げる。トキの手をぎゅっと握るその手が震えていて、心臓が酷く痛みを放った。


 ──ああ、何で、そんな顔をするんだよ。



(さっき俺に何されたか忘れたのか、アンタは)



 ぐ、と奥歯を噛み、一瞬視線を落とす。

 嫌がる彼女を組み敷いて、その綺麗な体を穢そうとしたのは、紛れも無く今握っているその手だというのに。



「……」



 再び視線を上げれば、セシリアの頬が赤く腫れ上がっていた。よく見れば唇も切れ、血の滲んだ跡がある。そういえば意識が途切れる直前、彼女も村人に殴られていたなと今になって思い出した。


 その傷跡が、更に理解できない感情を増やしていく。



(何で自分の傷は治療しないんだよ)



 人のことばかりを心配して、自分の身はいつも二の次。人のために泣いて、人のために祈って。その感情がトキには理解できない。


 結局心に余裕のあるやつが可哀想な他人に優しさを分け与えて、自己満足に浸っているだけだろう? 人のためだと言いながら、結局最後は自分のためだ。


 そうだろ?

 そうじゃなきゃ、おかしいじゃないか。



(結局、コイツも偽善者だ)



 その純粋で無垢な笑顔を、この手でよごしてしまいたかった。なぜなら彼はそれしか知らない。他人のものを奪うだけ。奪って自分のものにして、飽きたら捨ててまた奪うだけ。



(もう、俺に構うなよ)



 どうせ傷付けられると、分かっているだろうに。今日だって本当は傷付いていたくせに、笑って、なんでもないような顔して。


 そのくせに何で。



(こんな時ばっかり、泣くんだよ……)



 どうして俺なんか助けたんだ。

 何で俺なんかのために泣くんだ。

 意味がわからない。


 意味が……ああ。



 胸が痛い。






「…………悪かった」



 ぽつり、と。らしくもない謝罪の言葉が口から飛び出して、セシリアは驚いたように顔を上げ、目を開いた。だがそれ以上に驚いたのはトキの方だ。


 ──何を言っているんだ、俺は。


 心の中に住まうもう一人の自分が止めるが、口を付いて出た言の葉たちはそのままこぼれ落ちるばかりで。



「……森の中で、怒鳴りつけて悪かった。宿でも、いきなり襲い掛かって……悪かった」


「……」


「……さっきも、心配掛けて……泣かせて、悪かったな」



 ひとしきり謝罪の言葉を言い切って、トキは気まずそうに目をそらす。胸中は穏やかではなかった。


 ──らしくない。らしくなさすぎる。


 初めて、他人にここまで素直に謝ったのではないだろうか。ディラシナに居た頃世話になっていた酒場の店主マスターにすら謝ったことなどない。しかしもうすでに言葉の矢は放たれた後。飛んで行ってしまったやじりを捕まえることなど、もはや出来はしなくて。



「……」



 続く沈黙が永遠に感じた。何も言わない彼女の反応が柄にもなく恐ろしく思えて、トキは恐る恐るとその顔を見上げる。


 ──黙ったままその場に座る彼女の口元は、いつも通りの優しい笑みを浮かべているのだと、心のどこかでは分かっていたはずなのに。



「……本当です。アデルがいたら三十回ぐらい噛み付かれてますよ?」



 泣き腫らした目を細め、彼女はやはり微笑んでいた。暗い牢獄の中だというのにその笑顔がやけに眩しく見えて、彼もまた目を細める。


 その時、あれほど痛いと思っていた胸が酷く安堵した気がしたのは、気のせいだろうか。



「……噛まれたって、どうせアンタが治してくれるんだろ」



 飄々と軽口を返せばセシリアはくすくすと笑った。「ふふ、どうでしょうね」なんて言っているが、彼女がその時「どう」するかなんて分かりきっている。


 ああくそ、居心地悪い。



 ──カツ、カツ、



「!」



 ふと、静まり返っていた暗い牢獄内に複数の足音が響き渡った。トキは眉を潜め、セシリアは不安げに胸の前で両手を握る。薄暗い通路の先からこちらに向かってやって来たのは、若い二人の男だった。



「よお。お目覚めかい、お二人さん」


「……」



 トキは答えず、二人の顔を睨みつける。そんな彼を見つめ、男たちはフン、と鼻を鳴らして武器を肩に掛けた。



「気に食わねーな。さっき散々痛めつけたってのにもう傷が治ってやがる」


「あっちの女の魔法か。やっぱ魔女の仲間に違いねえな」



 男たちは不服げに眉根を寄せる。どうやら彼らが見張りらしく、片方の男の履いているズボンのポケットから鍵のようなものの一部が見えていた。トキはそれをじっと見つめ、静かに視線を上げる。



「あ、あの、違うんです! 私たち本当に魔女とは関係ないんです! ここから出してください!」



 隣でセシリアが震える声を張り上げたが、そんな信憑性のない訴えなど何の意味も為さないだろうということは分かりきっていた。トキが小声で「やめろ、言うだけ無駄だ」と彼女を止める。「でも……!」と更に潔白を主張しようとしていたセシリアだったが、案の定彼らから返って来たのは嘲笑だった。



「そんな言葉信じられるわけねえだろバァーカ! あのデカい狼を連れていたのが何よりの証拠だ!」


「そうだそうだ!」


「そんな……! アデルは確かに魔物ですけど、彼は悪いことはしません! 優しい良い子なんです!」



 セシリアは必死で訴えるが、彼らは彼女の言葉を鼻で笑うばかり。ぐっ、とセシリアは唇を噛み、悔しげに視線を落とす。


 しかしその直後に放たれた男の言葉によって、俯き気味だった二人の顔は即座に持ち上がることとなった。



「何が良い子だよ。あの狼、じっとしろって何度言っても暴れやがって。体に何本も矢が刺さってんのに、しぶとい奴だったぜ」


「──…………」



 ──え?


 セシリアは顔を上げ、ニヤついた男の顔を見る。トキもまた、目を見開いて顔を上げていた。



「……いま、なんて……」



 セシリアの震える声が暗い牢獄内に響く。男はにんまりと笑い、楽しそうに続けた。



「おっといけねえ、ついうっかり口が滑っちまった」


「……あ、アデルに……あの狼に何かしたんですか!?」


「んん? ああ、お前らのお仲間の狼なあ……」



 どくん、どくんと鼓動が耳の奥に響く。セシリアは震えそうになる手をぎゅっと握り締め、男の言葉を待った。──否、本当は待ってなどいない。出来ることならば聞きたくない。だが、聞かねばならないのだ。


 どうか、どうか。彼が無事でありますようにと、己の信ずる神に祈りながら。


 ──しかし無情にも、弧を描いた男の口元から発せられた言葉はその祈りすらも凍り付かせてしまうような冷酷な現実で。




「──殺したよ」




 ああ神様、どうかどうか。


 その言葉が嘘だと、言ってくださいませんか。




 .


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