『』の短編。

麻象 塔(asasaki tou)

『嫌い』になる

 ミキサーで頭の中をぐちゃぐちゃにシェイクされた気分だった。

 河川敷の西日を背に、手ぶらで帰り道を歩いている。バッグは教室に。そのまま。

 自分の影を踏もうと前へ前へと進むけれど、虚しさと同じで終わりがない。

 ついさっき彼氏と別れた。理由は単純で、私と一緒に居てもつまらないらしい。

 くだらない理由に失笑しながら、同じ台詞をそのまま吐いてやった。

 だけど、それでも私は私を嫌いになる。アイツを嫌いになるのは構わない。けど、私が私を嫌いになるのは悔しい。

 河川敷を降りて住宅街に入りかかると、惨めでぐちゃぐちゃな頭の中に、笑い声が響く。

 公園で遊ぶ子供達の声だった。ふと、私は思い出す。小さい頃、友達の美希と2人で、この公園の木の下にタイムカプセルを埋めた事を。

 砂場で遊ぶ少年達の元へ行き、半ば強引にシャベルを奪うと、私はタイムカプセルの元に行きそれを掘り起こした。

 「大人になったら2人で一緒に開けようね」という幼き日の美希の言葉を遮って、缶の中を覗く。そこにはビーズで作られたアクセサリーと、時の経過を物語る様、茶色に変色した手紙が2枚入っていた。

 抜け駆けしてごめん。と心の中で謝罪すると、私は手紙に目を通す。

 美希の手紙には、将来パン屋のお嫁さんになって、毎日出来立てのパンを子供達と一緒に食べたいと書いてあった。

 子供らしいな、と思いながら顔の弛みを戻すと、私は2枚目を手に取る。

 少しの緊張と好奇心で既に胸はいっぱいだった。

 さっきまではなんとも思わなかった夕方のオレンジが、手元を照らすスポットライトの様に感じる。

 畳まれた手紙を緊張しながらそっと開くと、そこにはたった一行、こう書いてあった。


 『美希ちゃんに黙って先に見ちゃうなんて、つまらない奴』


 私は笑いながら、バッグを取りに戻った。

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『』の短編。 麻象 塔(asasaki tou) @asasakitou

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