Episode 2 夜に囚われて

 ――夜だけを愛した少女は、されど夜に愛されてはいなかった。箱庭の少女は誰にも見つけられないまま、永遠の夜に取り残される。


 箱庭の少女は日暮れとともに目覚め、夜明け前に眠りに就く。

 その日もまた、一人の夜だった。聴こえるのは風の音だけだ。彼女の箱庭には、彼女の知る限り人一人どころか虫一匹さえ訪れない。変わらない景色が、今夜も彼女の前に広がっている。

 月は満ちて欠けてを繰り返すだけで何も与えてはくれない。星は淡々と巡るだけ。その圧倒的な美しさにさえ、彼女はもう心動かされなくなってしまった。まるで感情が錆び付いてしまったかのように。

 唯一彼女が心を許せた草花も、いつかは枯れてしまうことに、彼女はもう気が付いていた。それでも少女はただ歌う。萎れていた花たちが、ゆっくりと顔を上げて彼女を見る。優しい雨のようだった歌は、いつしか悲しげに変わっていた。

 ‪夜に生きること以外を知らない少女は、何度でも紺碧の空に手を伸ばし続ける。彼女にとってそれは、祈りのようなものだったのだろう。


 その頬にいつしか流れていた雫を、見た者はいない。‬

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