第3話 異端児エルフ、貴人と契約す


 無属性の精霊である白鬼と黒鬼を召喚した俺は村で孤立してしまい、両親に迷惑を掛けないよう村を出立し、ダンジョン都市を目指すことになった。

 そして道中、旅の安全を確保するため、二人から式神について学ぶこととなったのだ。


『まず式神とは、陰陽師が使役する鬼神のことで、人心から起こる悪行や善行を見定める役を務めるものを指します』

『式の神や識の神とも呼ばれ、時代によっては式鬼神とも呼ばれておりますな』

『へ~。俺の式神のイメージって、よく漫画なんかで人型の紙を動かしたりしているあれなんだけど、それと同じなのか?』

『確かにそれも一つの式神でございます』

『紙や藁などで人形の形代をつくり、そこに術を用いて式神とする、一番簡便でリスクの低い方法ですな』

『なるほど』


 どうやら式神と言っても色々と種類があるようだ。


『リスクって言ったけど、もっとリスクの大きい方法もあるってことか?』

『はいな。式神には他にも術者が霊気――こちらで言う魔力を用いて自らつくり出す式神や、元々いた鬼や神などの存在を術をもって屈服させた式神などが存在します』

『どちらもリスクや対価がかかりますが、使役出来れば強力なものとなりましょう』

『へ~、いいなそれ。早速やってみようぜ!』


 どちらも強そうで、仲間に出来たら心強そうだ。


『う~む、作り出す方はまだ難しゅうございますから、先ずは既にいる存在を式神にするのがよろしいでしょう』

『とは言え、そちらも今の主では中々困難かと。屈服させるほどの術をお持ちでないので……』

『え、じゃあ式神を作れないってことか?』

『いえ、屈服させられないのであれば、交渉すれば良いのです』

『幸い今は我らがおります故、交渉の橋渡し程度は出来ますので』


 なるほど、交渉で契約を結んで力を貸してもらうという事か。


『その交渉って、どんなことをするんだ?』

『基本的には対価の交渉となりますな』

『力を貸してもらう代わりに、こちらから何かを差し出すのです』

『……具体的には?』

『さて』

『それは相手次第としか』


 なんか、悪魔との契約みたいだな。

 でもまぁ似た様な物かもしれない。

 対価かぁ。俺が払えるものだと良いのだが。


『了解だ。まぁ対価を払うのが無理だったら、お引き取り願うことも出来るんだろ?』

『それはもう』

『細かなサポートは我らにお任せを!』


 そういう事であれば、とりあえずやってみればいいか。


『じゃぁ早速やってみようぜ! 呼び出す対象は自由に選べるのか?』

『確かに可能ではありますが……』

『あまりお勧めは致しませんな』

『……なんでだ?』

『鬼や神などには系統という物がございます』

『異なる系統の物と契りを結ぶと、その分力が弱まってしまうのです』


 なるほど。式神の力を強めるためにも、一つの系統に絞った方が良いという事か。


『分かった。じゃあ系統は一つに絞るとしよう』

『それがよろしいかと』

『では先ずは主様が式神にしたい対象を思い描いてくだされ』


 式神にしたい対象か。

 どうせだったら強そうなものがいい。

 白虎や青龍、朱雀のような……。


『ふむふむなるほど』

『であれば、十二天将の系譜がよろしいでしょう』


 俺のイメージを受けて、白鬼たちがそう提案してくる。


『十二天将?』

『それぞれが五行の神を司る、十二の神々にございます』

『一つの系統に五行すべてがバランス良く収まっております故、主様の式にするには丁度良いかと』


 なるほど、五行か。

 確か、この世の物は木、火、土、金、水の五つ元素から成り立っているという考え方だったか。

 確かにそのすべてが収まっているのなら、色々な場面に臨機応変に対応できるかもしれない。


『分かった。じゃあその十二天将と交渉してみよう』

『はいな。では先ず十二天将の長である【貴人】殿を呼び出すことにいたしましょう』

『彼女との交渉がうまくいけば、他の者とも交渉が多少やりやすくなります故』

『了解だ。……でも、魔力足りるかな? 前回お前たちを呼び出した時はギリギリまで放出してしまったんだが……』

『おそらく問題無いでしょう。前回は異界との門を開くために、多くの魔力が必要だったものと思われます』

『我らがこちらにいる限り、門は開いたままとなります故、そちらに割く消費量は必要ありませぬ』


 なるほど。前回あれだけ魔力を消費してしまったのはそういう訳だったのか。

 かなりの魔力を保持していたと思っていたのに、少し自信を無くしていたんだよな。

 でもそういう理由なら納得だ。


『分かった。じゃあ始めてくれ』

『はいな! ――おいでませおいでませ』

『あの世に住まいし神々よ。我らの呼びかけに応え、今ここに顕現なされよ』

『『神鬼召喚――出でよ【貴人】!』』


 二人が舞うようにして円を描き歌を唄う。

 すると俺から魔力が放出していき、目の前に光が集まっていく。

 その光は徐々に人型を為していき――気づけばそこに、一人の女性が顕現していた。

 その女性はふわりとした羽衣を纏い、黒銀の髪と水色の瞳が神秘的な不思議な女性。

 所謂天女と言う奴だろうか。

 彼女はこちらを見て、不思議そうに尋ねてくる。


『はて。久方ぶりに下界へと呼ばれたと思えば、これはまた変わった風体をしておるのう。所謂コスプレという奴かの?』

『えっと……』

『貴人殿! ここは地球とは異なる世界。この方は我らが主で、エルフという種族にござります!』

『然り然り。貴人殿は我らが主の呼びかけにより、こうして顕現なされたのです』


 白鬼たちが、これまでの経緯を簡単に彼女に伝えてくれる。

 すると彼女は得心行ったと頷いた後、興味深そうに俺を眺めて口を開いた。


『ふむ、良かろう。我らが十二天将と式の契約を結ぶ交渉をすることを許してやろう。ただしそれぞれがそなたに対価を要求するであろうから、それを叶えることが出来れば、の話じゃがな』

『対価、ね。因みにあんたの対価は?』

『おや? わらわとも契約を結ぶ気かの? わらわは十二天将の長を任されてはおるが、直接何か力を有している訳ではない。そなたの力にはなれぬと思うが?』


 そう言って試す様な視線を送ってくる彼女。


『だがあんたと契約を結べば、他の天将たちと契約を結ぶ際、色々とやりやすくはなるんじゃないのか?』

『ふふ、ま、その通りじゃの。あい分かった。ではそなたにわらわと契約する対価を教えよう。わらわが要求する物は二つ。一つはそなたの死後、わらわの部下となりて仕事の手伝いをすること』

『仕事の手伝い?』

『うむ、そうじゃ。最近人手不足でのう、そなたの様に霊気溢れるものでないと中々力及ばぬ仕事も多いのじゃ。どうじゃ、やってみんかの?』


 ニヤニヤと尋ねてくる彼女。

 俺は困って白鬼たちに視線を送る。

 すると彼らは嬉しそうに踊っていた。


『いやーめでたい! 我らが主様が十二天将にスカウトされるとは!』

『主様、お受けなされ! 十二天将と言えば、冥界の中でもエリートの中のエリート。受けて損はありませぬぞ!』


 なるほど、十二天将って向こうではそういう位置づけなのか。

 なら、問題はないかな。


『了解だ、その申し出を受けよう。んで? もう一つの対価とは?』

『なぁに、もう一つはおまけの様な物じゃ。ここ数百年ほど現世の物を食せていないのでな。偶にわらわを呼び出し、旨い物を食わしてたもれ』

『……わかった。それくらいならお安い御用だ。今はまだ拠点が定まっていないから満足に料理も出来ないが、また出来次第呼ぶとするよ』

『ふふ、楽しみにしておるぞ。では契約成立じゃ。他の天将を呼ぶ際に、わらわを予め呼び出しておくとよいぞ? 色々と助言もしてやろう』

『ああ、ありがとう、助かるよ。じゃあ早速で悪いんだが、移動や護衛に最適な天将っていないか? これからちょっと旅をしなくちゃいけなくてな。一人では心細いと思っていたんだ』

『なるほどのう。そういう事であれば、【青龍】に声を掛ければ良かろう。あ奴は木神、風と雷を操るでな。吉将であるから気性も穏やかで、今のそなたが契約するには丁度良いであろう』


 おお、青龍。メジャー所の一角だな。

 十二天将には吉将と凶将の二種類がいるらしく、簡単に言えば吉将は穏やかで、凶将は激しい気性をしているらしい。

 積極的な戦闘などには凶将の方が向いているらしいが、扱いが難しいのだとか。


『了解。じゃあ早速呼び出してみるよ。白鬼、黒鬼、頼んだ』

『『はいな!』』


 成龍か。一体どんな天将なんだろうな。



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異端児エルフの精霊召喚 @ariyoshiakira

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