第1章 第4話

―――気持ちのいい朝だ。が、天井は自分の部屋のものではなかった。




「……夢じゃないわけだな…」




少しだけ、起きたら元の世界に戻れるかもと期待していたが、どうやらそれは淡い期待だったようだ。




「もうすぐ馬車が来るわ。起きてね」




起き上がると机にあるパンをかじる青髪の少女――エルミナがいた。




「あ、うん。おはよう。」




あくびをしながら椅子に歩み寄って座り、エルミナと同じようにパンをかじる。




朝食をすませ、身支度を終わらせて宿の前に到着した馬車に乗り込む。




「すっげぇ揺れそうだな。車と舗装された道が恋しいぜ」




地面はでこぼこ、馬車のタイヤ(?)も絶対揺れる形をしている。酔ってしまうのではないだろうか




「文句ばっかり言ってても仕方ないじゃない。…酔ったらどうしよう」




「エルミナも案外そういうこと言ったりするのな。まぁ酔ったら止めてもらえばいいだろ…」




「そ、そうね。じゃあ乗りましょう…」




馬車に乗り、行き先を伝えて出発する。流れる繁華街の風景を眺め、エルミナがこちらを見て話しかけてくる。




「ねぇ、昨日私が助けに行く前、ナナセかあの人のどっちかが火属性魔法を使ったりしなかった?それを見て駆け付けたんだけど…」




昨日の魔法――あの炎だろう。追い込まれてとっさに出したものだから出し方は分からない。




「俺だよ。ナイフで刺されそうになってとっさになんか火が出たんだよな」




「詠唱とかなにもなしに?」




「うん。急に体が熱くなって、叫んだら火が出た」




「………?」




エルミナは不思議そうにこちらを見つめ、やがて何やら考え始めた。




「あなたにはもしかしたら火属性魔法の素質があるのかもね。今まで使えなかったのにいきなり使えたのは多分大きな魔力……まぁ私ね。私が近くにいたから多分影響されたんだと思うわ」




エルミナの魔力の影響を受けて俺の中の魔力が活性化したということらしい。




「そうなのか?もしそうなら護身用でもなにか使えるようになりたいな…火ならキャンプで焚き火するときとか楽そう」




「うーん…でも、すぐには使えるようにならないと思うわ。魔法は使える人は生まれつき使えるものだから、途中覚醒のナナセは多分精霊の力を借りるか、それか魔宝石を使うしかないのよ…」




この世界には精霊が居るのか、と少し驚いたが、魔法があるならまぁ不思議ではないと納得した。




「そうなんだ…ちなみに、その精霊と魔宝石の違いってあるの?」




「精霊の方は契約が必要だけど、強い精霊と強い魔力を持った人間が組むとそれこそ大罪にも匹敵する力が手に入るの。でも弱い者同士が組んでも弱いままよ。で、魔宝石は使用者の魔力に上乗せするから、安定して戦えるのよ。かわりに魔宝石は使い捨てだから、精霊魔法使いと戦うには相当な量が必要になる……ってところかしら」




精霊と契約すれば強くなれる。魔宝石は大罪レベルになるにはかなりの量が必要。逆に量さえあれば大罪が超えられるのか…と考えたが、それができれば大罪など敵ではなかっただろう。




「そうか。じゃあ俺が魔法使えるようになるにはまず精霊を探さないとな…」




精霊探しの方法はわからないが、また昨日の野郎見たいのに襲われても困るので、一応力は持っておきたい。




「そういえば、私の家に世界最高峰の精霊の召喚本があったわね……強い魔力を持つ人間としか契約はしないらしいけど、試してみる価値はあるかも。」




「なるほど…強い奴としか契約しないのか。俺にそれくらいの魔力がありゃいいんだけどな……」




「うん………ちょっと眠くなってきちゃった…寝てもいい?」




あくびをしてエルミナはそう言って背もたれに体重を掛ける。




「うん。昨日遅かったもんな。」




そう言ってすぐにエルミナは寝てしまった。会話相手がいなくなり俺も二度寝してしまった。




――――――


「お客さん、着いたよ」




馬車を運転していた男に起こされ、軽く伸びをしてあたりを見渡す。




「エルミナ、着いたぜ」




俺に声をかけられ、エルミナは目をこすりながら馬車から下りた。




「ありがとうございました。これ馬車代です。」




「あい。確かに受け取ったぜ。まいどあり」




金を受け取り、馬車は帰っていく。ふとあたりを見回した。




「……これエルミナの家なの!?」




でかすぎる、と驚く俺を見て、エルミナは


「そうかな、とりあえず部屋はいっぱいあるから、案内するわね。中に入るわよ」




そう言い、エルミナが豪邸の玄関に向かって歩いていく。庭も相当広いため、玄関が遠かった。


エルミナが玄関を開けるとそこに…




「あらエルミナさん、おかえりなさい!」




と元気よく近寄ってくる少女。




「あれ?その方はどちら様ですか?」




俺の方をみて少女は目をぱちくりさせている。




「街で会ったの。仕事を探しているらしいからここで働いてもらおうと思って。」




「そうでございましたか。はい、私、ここの使用人をしております、マリアと申します。貴方は?」




「俺は結城七星。ナナセでいいよ。よろしくな。」




「さて、ナナセがここで働くのは明日からにしましょう。今日はほかに用があるから。」




自己紹介を終え、エルミナが俺を連れて廊下を歩いていく。




「たしかこの部屋に精霊を呼び出す本が…あ、あった」




「これで世界最高峰の精霊ってのが呼び出せるのか?」




古びた埃まみれの本には――日本語ではない言葉でなにかが書かれていた。




「それじゃ、召喚するわよ?」




少し不安そうな表情で俺を見て、エルミナが詠唱を唱え始める。しばらくすると本を中心に魔法陣が現れ、魔法陣から黒猫のようなものが現れる。




「……久しぶりに呼び出されたね。何の用だい?」




猫は淡い光をまとっており、次第に光が抜けて行く。




「はい、この者にあなたのお力を貸してはくれないかと」




少しだけ俺を眺め、やがて猫はこう言った。




「………ふむ、確かにいい器だね。少し外で魔力を見せてくれるかな?」




「あの、俺魔法の使い方知らないですよ…?」




「大丈夫。仮契約だけして僕が教えるよ」




そう言い猫は部屋から出て、窓から外に出る。




「で、俺はどうすればいいんだ?」




「そこらへんに手のひらを向けて僕の言葉を繰り返すだけでいいよ。火属性だから、エルミナ、君は消化してくれると嬉しいかな」




「ん?でもエルミナは氷じゃ…」




「氷はサブ魔法なの。いつもは水魔法よ。」




「じゃあさっそく、フォイア、はい」




猫に言われたとおりに詠唱を唱える、それでいいのか疑心暗鬼になってるが、やってみるだけやってみる。




「フォイア!!」




その直後、俺の周りにあの時と同じ炎が現れ、周りの草は燃え、俺も燃えている。だが不思議と熱くはなく、少し暖かいくらいだった。




「はい、エルミナ、消化お願い。」




エルミナが俺が出した火を消火し、周りの炎は完全に消えた。




「うん、確かに火属性魔法が使えるみたいだね。この感じならイル・フォイアは使えると思うけど、ラ・フォイアを使えるかだね。ラ・フォイアって言ってごらん?」




「お、おう…ラ・フォイア」




詠唱を唱えた瞬間、さっきとは全く違う炎の玉が現れた。その玉は俺の周りを浮遊していた。




「それじゃあ、それを操作してごらん」




「操作ったってやり方知らないけど…」




「飛べと念じるだけで思い通りの方向に飛ぶはずだよ」




よくわからないが、強く飛べと念じれば飛ぶらしいのでやってみる。なんだかふわふわしていて分かりずらいが、やってみないことには始まらない。




《飛べ》




そう念じた瞬間、俺の周りに浮遊していた炎の玉は一斉に指示通りの方向に飛んでいった。




「うん。ラ・フォイアも問題なく使えるみたいだね。あとは派生魔法だけど、それは時間がかかるから明日以降教えてあげるよ。」




「え、じゃあ…」




「うん。君と契約してあげるよ。」




世界最高峰の精霊と契約し、それに魔法を教えてもらえる。そしてこの精霊が契約するということは俺も強い魔力があるということだろう。




「すごいじゃない!こんな強い精霊と契約なんて!しっかり練習すれば大罪とも戦えるかも!」




エルミナは興奮気味にそう言い、俺と猫の近くに走ってくる。




「そうだね。明日からお仕事の合間に教えてあげるよ。でもその前にしっかり契約しないとね?」




「契約ってどうすればいいんだ?」




「僕がOKしたうえで、君が僕の名前をつけて呼ぶ。それだけだよ」




「それだけでいいのかよ?じゃあ名前は…」




精霊に名前を付ける。それで契約が結べるらしい。せっかくならかっこいい名前にしたいところだが、どうしようか




「うーん………じゃあ、クロだな…うん、《クロ》」




名前を呼んだ瞬間、猫と俺を中心に魔法陣が現れ、俺の腕と『クロ』の背中に刻印が現れた。




「これで契約完了。僕を呼び出したいときは心の中で僕を呼べばいいよ」




そう言い、クロは姿を消した。




「…それじゃあ、契約も終わったし屋敷内を案内してあげるわ」




「うん。頼むよ」




エルミナと俺はそのあと4時間も屋敷の中を歩き回った。すっかり夕方になり、もう空は赤く、日は沈みかけていた。




「すげぇ1日だったな…」

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炎の革命 @honoonokakumei

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