第1章 第3話
「えー、つまりどういうことなの?」
小さな宿の一室に俺と少女で二人。木造の古い部屋の中で座って会話をしている。
「いや…その、人探しをしてて、夕方の馬車で帰ろうと思ったんだけど、お金の入った袋を落としちゃって…」
「で、見つかったの?」
「一応…でも、もう馬車の時間は過ぎちゃってるし、どうしようってさまよってたらあなたがいじめられてて…」
「なるほどな。だがどうして同じ部屋に…?」
そう、なぜか同じ部屋にいるのだ。なぜか少女は2人1部屋しか借りなかった。どういうことだ
「いやっその…1部屋しか空いてないって言われて…まあ、急だったからしょうがないわよ……ごめんね」
少女は申し訳なさそうに謝り、こちらに視線を送ってくる。眩しい
だがこちらからすればもはやラッキーイベント。質問もできる。好都合なのである。
「ねぇ、誰を探していたの?こんなに遠くまで…」
少女は人探しに馬車で5時間以上かかるこの街にやってきていた。そして日が暮れるまで帰らなかった(帰れなかった)。
相当大事な人なのか、それとも…
「…あなたは、『大罪戦線』を知ってる?」
「いや、聞いたことないな」
「そう…じゃあ説明するわね。大罪戦線っていうのは、昔…といってもだいたい45年前、世界最高峰の魔法を持った7人の魔法使いが、この国を襲ったって事件が『大罪戦線』。その7人の魔法使いにはそれぞれ得意な魔法があって、それぞれがその魔法を使って街を壊し、王城をも破壊しようとしたらしいわ。最終的には『炎使い』が7人の力を奪い、大罪戦線は幕を閉じたわ。けど、2年前にその炎使いが亡くなって、奪われた力が大罪のもとに戻ってしまった。私はこの街にいると思われる大罪の一人、『憤怒』を探しにここに来たの。」
7人の魔法使いってのは『7つの大罪』の7人だろう。怠惰、傲慢、強欲、色欲、暴食、嫉妬、そして憤怒。それぞれが最高峰の魔法を持っている。
そしてそれらはかつて街を襲撃した…
「…だから路地の裏はあんなだったのか」
「うん…まぁそういうことね。まだ復興しきれていないのよ…」
なるほど…と考えこみ、ようやく今の国の状況を理解した。
「なるほどな。で、憤怒は見つかったのか?」
「見つからなかったわ。これだけ探してもいなかったし、多分もういないと思うわ」
少女は窓を見つめ、空を睨んだ。その眼には穏やかな怒りが宿っており、いい関係ではないのは目に見えていた。
「…な、なぁ、もう1つ質問してもいいか?」
「うん、いいわよ」
「………君の名前を教えてくれないかな?」
完全に忘れていたが、お互いまだ自己紹介もしていなかった。助けてくれた人の名前だ。知っておきたかった。
「あ、そうね。まだお互い自己紹介してなかったわ!」
少女は勢いよく立ちあがり笑顔で自己紹介を始める。
「私の名前はエルミナ!エルミナ・アルタイルよ。年齢は17、よろしくね!」
「俺はナナセ。結城七星だ。同い年だな。よろしくな、エルミナ。」
「ところで、ナナセはどうしてこの街に?」
少女…エルミナは俺にそう言い、答えを待っている。異世界召喚というものが普通なら問題ないのだが、もしも俺が異常な存在ならば今明かすのは危険かもしれない。だが、最初からほぼ詰んでいるこの世界での俺は最早リスクなどどうでもよくなっていた。
「俺はもともとこの世界ではない世界にいたんだけどな、今日突然いっきなりこの世界に来た。さっき売ったのは元いた世界の硬貨な。だから仕事探してるんだよねー。」
そうなんだ、とエルミナは少し考え込むように顎に手を当て、少ししてこう言った。
「なら明日から私の屋敷で働くといいわ。部屋も提供する。もともと使用人減ってたしね。明日の馬車で一緒に行かない?」
それは願ったり叶ったりな提案だった。美少女の元で働けるなんて。しかも部屋付き、最高じゃないか。
「マジでいいのか!?それなら是非働きたい!連れて行ってくれ!!」
「う、うん、じゃあ明日、朝一番の馬車で出発しましょう。じゃあ、おやすみなさい。」
召喚1日目で仕事と寝床を確保し、魔力もある。なかなか面白くなってきた…などと考えながら睡魔に襲われ、俺は意識を手放した。
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