第4話

 翌日、目が覚めると予想以上に寝込んでいたみたいで、だいぶ日が登っていた。

 これだと朝というよりも、昼に近い時間だな。

 ねぐらからでた俺は、驚いた。

 あの後、井戸までの道の草取りを命じた骸骨たちには、それが終わり次第、塒を中心に草取りを続けるように指示していたのだが、塒の周りどころか目の見える範囲には目立つ雑草がほとんどなかったのだ。

 考えてみれば、俺が最後に見てから12時間近く経っており、その間休まず草むしりをさせ続ければこうなっていてもおかしくはない、と気づいた。

 となれば、他の骸骨たちもかなりの仕事をこなしていたのではないかと期待した。


 まずは、水の確認だ。

 濾過した井戸水を煮沸するように言っておいたが、どうなっている事やら。

 そこへ向かうと、骸骨が一体見える。

 近づいみると、その骸骨は昨日命じたやつらしく、今だに焚き火で、水を煮沸していた。

 ただ、昨日と違うのは、その骸骨の横に大きなかめが一つ、小さな甕が数個置いてあったという事だ。

 俺は、その甕の方に近寄り中を覗いてみると、大きな甕の中に水が並々とまではいかないが、半分くらいは溜まっていた。

 甕の大きさは俺の胸辺りまであるから、1mちょっと、幅は50~60cmといったところだ。

 これだけあれば、2〜3日分は賄えるだろう。

 ここまでやってくれたんだ、労ってやらないと。


「お疲れさん。だいぶ溜まったな。疲れたか?」


 そう尋ねてみるが、その骸骨は首を横に振る。

 わかっていた事だが、やはりこいつらには疲れというものがないのだろう。

 それだけではない。

 今目の前にいるこいつは、水が入っている小さな甕を、両手で掴んで火の上で炙っている。

 そんな事をすれば、普通熱くなって続けられないものなのに、そういうそぶりすら見せずにずっと持ち続けている。

 その様子からして、暑いというものが感じないのだろう。

 多分痛みも感じないのだろうな、と思った。


こいつには大きな甕ががいっぱいになるまで、続けてもらうとしてだ、他の骸骨たちはどこにいるんだ?

草を抜いているだろうから、草が抜けているところを見回れば、そのうち会えるか。


そう思い、草が抜けているところを歩いていく。

すると、思った通り骸骨たちは、黙々と草を抜いていた。

それもそのはずだな。

骸骨たちには話す手段がなく、できても顎を鳴らすくらいだろう。


「お前たち、一旦作業はやめて集まれ〜」


俺がそう指示を出すと、骸骨たちは草抜きをやめて俺の周りに集まる。

集まった骸骨を改めて見ると、大きさに差がある。

大きい奴は180cmくらいで、小さい奴だと160cmくらいだった。

骨格も微妙に違うから、大き方は男で、小さい方は女だったのかもしれない。

もしかしたら両方とも男なのかもしれないが、そこまで知っているわけでもないし、骨だけしかないいまではどうでもいいか。


「え〜、お前たちにはこれから俺の住む家の修繕の手伝いをしてもらう。その為に、まずは材料や道具が必要となるわけだが、半数に分かれて材料を探す班と道具を探す班になってもらう。班分けは、3:4でいいか。お前からこっちが材料班で、残った方は道具班な」


3体の方を道具班に、4体の方を材料班に決める。


道具は、金槌とノコギリあたりがあればなんとかなるし、対してかさばるわけでもないから数は少なくてもいいはず。

対して、材料の方は、使える板が無いか探して、なければ木を伐採してカットしなければいけないからな。

どう考えてもこっちの方が人手が必要だろう。

俺も、こっちに入って一緒に材料探しをしよう。

一番手っ取り早く材料を集めるのは、廃屋となった家に使われていた板を外すことだけど、使えるかどうか判別できればいいな。


そんなことを思いながら、他の骸骨と一緒に材料を集めを始める。

まずは、あまり荒れていない家を探し、壁に使われている板を軽く叩いたりして、その音で傷んでいないか判断する。

高い音がする板は、傷んでいない、低いもしくは鈍い音がするのは、傷んでいるか腐っているだろうと判断して、高い音がする板だけを外そうとするが、どうやって外すかで考え込んでしまった。

すると、一体の骸骨が、俺に任せろとでもいうように、自分の胸を叩く。

自信がありそうな様子がしたので任せて見ることにした。

すると、その骸骨は一旦外に出ると、先の尖った石を手に持ち、外そうとしていた板の横に差し込んだ。


なるほど。こいつ頭がいいな。


その骸骨はそのままテコの原理で板を外した。

うまく板を取ることができたのを見て、思わず拍手してしまった。


「すげーな、お前。もしかして、生きていた時こういうことをしていたのか?」


そう尋ねて見ると、その骸骨は大きく頷く。


「そうか。んじゃ、これからお前は棟梁な。よろしく棟梁」


俺は、そいつの肩を叩きながらそう名付ける。

すると、そいつは嬉しそうに何度も頷く。


「それじゃあ、棟梁。俺はどうすればいいのかよくわかんねぇから、指示を出してくれ」


俺がそういうと、棟梁は頷き、他の骸骨たちに指示を出していく。

その様子を見て不思議だったのが、声を出しているわけでもないのに、やけに細かいところまで指示が行き届いていたことだった。

もしかしたら、俺にはわからない方法で会話をしているのかもしれない。

まあ、それならそれで俺は助かるからいいけどね。


棟梁の指示の下、家はみるみるうちに解体されていき、使える材料、使えない材料と分けられていった。

途中、俺は昼食のために外れていたのだが、その間も骸骨たちは働き続けていて、夕方頃には一軒丸々解体してしまった。

その中で使える材料は半分どころか、十分の一くらいしか使えないそうだ。

その判別も棟梁がやってくれたので、俺は大いに助かった。


道具班も、色々と見つけてくれたのだが、ほとんどが錆びだらけだったり、欠けていたりしていて、まともなものはなかった。

錆びている刃物は、研ぎ直せば使えそうではあったのだが、残念ながら俺は刃物を研いだことはない。

それどころか、やり方すらあやふやにしか覚えていない。

どうしたものかと思っていると、棟梁とは別の骸骨が前に出てきた。

なので、そいつに錆びている刃物を渡すと、そいつは平べったい石を探し出し、濾過していない井戸の水を刃物と石にかけるとシャーシャーと研ぎ始めた。

その様子は随分と様になっていて、やり慣れているのがわかる。

しばらくすると、そいつは研ぐのをやめ近くの草の葉で、刃物を拭いだす。

それが終わると、そいつは研いでいた刃物を渡してきた。

それを受け取ると、錆びていたはずの刃物が、キラリと輝く刃物へと変化していた。


「スッゲー。完全に刃物として復活してるよ。お前スゲーよ!他にも何かできるのか?」


そう尋ねると、左手で何かを掴む様子を、右手はないかを振り下ろす様子を見せた。

その様子からあることが頭によぎった。


「もしかして、鍛治ができるのか!?」


すると、そいつは頷く。


「なるほど。鍛治師だったんだな。そうかそうか。となれば、お前はたくみという名前でいいか?」


そういうと、そいつは何度も頷く。


「よし。そんじゃお前は匠に決定だ!」


しかし、運がいいな。

大工に鍛治をやっていた奴がいたなんてな。

もしかしたら、他の骸骨たちも何か秀でた特技を持っているのかもしれない。

そうであれば、何とかやっていけるかもしれないぞ。

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嫌われネクロマンサーになったが、実は万能だった!? 時雨 @aoz-001

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