第3話

 食料、水、ねぐらを――水と寝床は一次的なものだが――なんとか確保できたから次は、ネクロマンサーとしての能力がどんなものか把握しておかないとな。

 ネクロマンサーといえば、女神に聞かれたときにも答えたが、死体などの死霊系を操る職業ジョブだ。

 もっと分かり易く言えば、スケルトンやゾンビ、幽霊などを操るという事だ。

 しかし、どうすればいいんだ?

 死霊系を操るというのはわかっても、そのやり方が分からない。

 ったく、女神様も不親切だよな。肝心なネクロマンサーの説明がないのは。


 と思っていると、目の前にヒラヒラと紙が落ちてきた。

 その紙を掴み、見てみる。



 肝心なネクロマンサーの説明を忘れていました。

 とは言っても、特に説明は必要はないんですが念の為に。

 まずは素材を集めてください。

 例えば、何かの死体とか骨ですね。

 素材を集めた後は呪文を唱えれば完成ですが、怨念が強い死体ですと、失敗することが多いので気をつけてください。

 呪文については、自然と口から出てきますので省きます。

 これで今日からネクロマンサーとしてやっていけます。

 頑張ってください。


 女神より



 読み終えた俺は、ため息を吐く。

 タイミングが良すぎる。

 これは俺の様子を見ていたな。間違いない。

 でなければ、こんな都合よく俺の前に紙が落ちてくるわけがない。

 どういうつもりで見ていたのか気になるが、送り出したばかりで、さらにネクロマンサーだから上手くやっていけるか気になって見ていた、と解釈しておこう。

 まさか面白がって見ていた、という訳ではあるまい。

 もし、そんな事を思って見ていたのなら呪詛じゅそでも送りつけてやろう。

 俺はネクロマンサーだし、そういうこともできるかもしれないしな。


 と思うと、再び紙が落ちてきたので、掴んで見る。



 察しの通り、あなたが気になって見ていたのは事実です。

 けして面白がって見ていた訳ではありませんよ?

 ですので、呪詛を送りつけようとするのはやめてくださいね?本当に。

 もし、送ってきたとしても、まず間違いなく呪詛を返すことになりますし、仮に呪詛が通ったとしても、私には効果がありませんので。

 無意味どころか、あなたが危険な目に合うだけとなります。

 そういう訳ですので、呪詛を送るのはやめてください。


 女神より



 本当に見ていやがったのか。

 しかし、これを読むとフリのように見えるが、このレスポンスの速さから考えると、相当焦ってるように見えるな。

 もしかして、フリじゃなくて、本当に呪詛を送られるのを嫌がったのか?

 それとも、これに書いてある通り返されて危険だから忠告しただけなのか?

 これはちょっと判断に悩むところだが、呪詛を返される可能性があるのならやめておこう。

 神に見られたからといって、どうこうできる訳ではないしな。

 それよりも、ネクロマンサーの方が優先だ。

 この手紙通りなら、まず素材を集める必要があるな。

 素材となると死体だが、近くにあるか?

 近くに墓地があれば、簡単に集まりそうだが、さっき見回った時にはそれらしいものはなかったんだよな。

 墓地を作る余裕がなかったのか、それとも、作る必要がなかった、のどちらかなのだろうが、どっちにしろ素材は手に入らないのに代わりはない。

 そうなると、自力で手に入れるしかないな。


 自力で素材である死体を集めなければならないと考えると、陰鬱になる。

 取り敢えず、この廃村は軽くしか見回していなかったから、じっくりと探索してみよう。

 もしかしたら、見逃していた可能性もある。

 そんな思いで見て回っていると、何かの小動物の白骨を発見することができた。

 大きさや形から判断すると、猫かそれに近い動物だろう。

 とりあえず、こいつを素材にしてやってみるか。

 そう思うと、頭の中に言葉が浮かぶ。

 この言葉を口にして唱えれば、俺のしもべにすることができるとわかったので、唱えてみる。


「命無きむくろよ。その体に偽りの魂を宿し、我が僕として甦れ。不死者創作アンデッドクリエイト!」


 そう唱えた途端、体から力が抜けていく。

 まるで貧血を起こしたかのように、目の前が真っ白になり自分が倒れたことがわかった。

 幸い倒れたのが草の生えていたところだったので、怪我を負うことはなかった。


 俺は、どうやらそのまま気を失っていたようで、意識が戻った時には辺り一面薄暗くなっていた。

 起き上がろうとしたが、不自然な形でいた為に体のあちこちが痛む。


「イテテ。ったく、付いてないな。こんなことで気を失うなんて。たかが小動物1匹をアンデッドにするだけなのに」


 文句を垂れながら、起き上がる。


「うわぁぁ!!」


 草叢くさむらから顔を出すと、目の前には骸骨がいた。

 しかも、1体だけでなく何体もだ。

 流石にこれには驚いてしまい、尻餅をつく。

 俺は、その場から逃れようと、尻餅をついたまま後ろに下がっていくが、なぜか骸骨はその場から動くことはない。

 そこで目の前にいる骸骨に敵意などがないことがわかった。

 どうやら目の前にいる骸骨は、敵ではないようだ。それどころか味方だと、もっといってしまえば、自分の物だという事が分かってしまった。

 なぜなら、この骸骨たちから自分の力を感じるのだ。

 多分、先ほど唱えた呪文によって蘇ったのだろう。

 つまり、先ほど気を失ったのは、一気に複数もの死体を僕として蘇らせるために、予想以上に力を使ったためだとわかった。

 それはともかくとして、こいつらは俺の僕だという事だ。

 そう思えたことによって、冷静さを取り戻して改めて近くにいる骸骨を見る事ができた。

 骸骨の数を数えてみると8体で、大きさや形からして多分人間なのだろう。

 先ほど見回していた時には見つからなかったのに、なぜこんなにもいたのか疑問に思ったのだが、ここにいる骸骨には土で汚れているのが見えたことにより、土の中にいたのだろうと予測できた。


 しかし、いきなり8体もの僕が手に入るとは、想定外だ。

 けど、8体分の労働力を手に入れたとも言える。

 これは僥倖ぎょうこうだ。

 もし、こいつらが手に入らなければ、家の修繕やら何やらを俺一人でやることになっていたからな。

 早速家の修繕に取り掛かりたい、と言いたいところだが今日は無理そうだな。


 先ほどまでわずかに残っていた日の光も、今は完全になくなり真っ暗になっている。

 こんなに暗くては家の修繕なんかできやしない。

 だからといって、こいつらを遊ばせておくのは勿体無い。

 ネクロマンサーとしての能力なのか、こいつらには眠りや休憩などは必要がない事が分かっていた。

 であるならば、何かしらの仕事を与えておくべきなのだが、何をやらせておくべきか悩んでしまう。

 ひとまず、食事にしよう。


「取り敢えず、ついて来い」


 骸骨にそう命令して、確保していた塒に向かう。

 塒に帰っている最中になって初めて気づいたのだが、俺が蘇らせた骸骨は人型だけではなかったようだ。

 蘇らせようとした猫らしい小動物が1匹と、蛇型が2体、鳥型が5体いる事が判明した。

 だが、こいつらには何ができるのか判断がつかなかったので、何か思い付くまで放置することにした。


 塒についた俺は、外ことたちを外で待たせバッグから食料を取り出した。

 バッグから出てきたのは、パンと木皿に入ったスープが1つずつ出てきた。

 パンはいいとして、木皿に入ったスープがどうやって入っていたのかが気になったが、ここは魔法がある異世界なのだからこういう事もできるのだと勝手に納得した。

 パンはボソボソとしていて不味かったが、スープに漬けることによって食べれるくらいになった。

 スープも野菜が少しだけ入った薄味で、現代の日本の食事と比べるとかなり貧しい食事となった。

 どうにか食事を済ませ木皿を洗おうと思った時に、いまの井戸水は使い物にならないことを思い出した。


 あちゃー。失敗した。

 井戸水は濾過しないといけないんだった。

 しかも、濾過した水も煮沸しないといけないしなぁ。

 めんどくさいなぁ。

 って、そうだ!こういう時にこいつらを使うべきだ!

 こいつらなら夜なんて関係なく動ける。

 いや、夜こそが本領を発揮する時間だ。

 やる事は、井戸水の濾過、煮沸、煮沸した水をためておける容器の捜索、井戸までの道に生えている草の除去。

 今はこれくらいだな。


 そう思い至れば、すぐさま動いた。

 まずは煮沸させるための火起こしを1体、井戸水の濾過に1体、煮沸した水を入れておくための容器の捜索に2体、残りの4体には井戸まで草取りを命じた。

 すると、火起こし・容器の捜索・草取りを命じた7体はすぐに動いたのだが、濾過を命じた骸骨だけは動こうとしなかった。

 なぜだと思ったが、すぐに濾過の意味がわかっていないのかもしれないと思い至る。

 なので、その骸骨を率いて井戸まで行き、実際に濾過をやってみせる。


「今やって見せたように、この甕がいっぱいになる少し手前までなんども繰り返して。ただし、濾過器から水がこぼれ落ちない注意するように。

 もし、こぼれ落ちるかもしれないと思うなら、甕の上で注ぐんじゃなく、少し話したところで注いだ後に、甕の上に持って来ればいいから。で、甕に水が溜まったら火を起こしている骸骨のところまで運ぶように」


 そう命じると、その骸骨は頷き命じた通りに動き始めた。


 うん。これでいいな。

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