第2話

 チクチクとした痛みを感じ取り目を開ける。

 すると、目の前に広がっていたのは、青い空とかなり伸びた雑草だった。

 どうやら俺は、地面に生えていた草にの上に寝転んでいたようだったので、上半身を起こし胡座をかく。


 えーっと、ここはどこだ?

 さっきまでのことが本当なら、ここは異世界のはずだが。


 辺りを見渡すが、目に入るのは伸びた雑草ばかりだ。


 座った状態だと草が邪魔で周囲の様子がよくわからんな。

 立って様子を見るか。


 そう思って地面に目を向けると、俺のすぐ側に筒状のバッグが置いてあり、そのバッグの上に紙が乗っかっていた。

 俺は、紙を手に取り何が書かれているか見てみる。





 この手紙を読んでいるという事は、無事に目覚める事が出来たようですね。

 そうなりますと、あなたは今いる場所がどこなのか気になるかと思います。

 そこは人里からかなり離れた廃村です。

 町や村のすぐ近くに送ってもよかったのですが、ネクロマンサーという職業を手にしていた為、そのような場所に送っても追い出されるのが目に見えていましたので、最初から人里から離れた場所へと送ることにしました。

 それだけですと、流石に生きるのは厳しいでしょうが、安心してください。

 この手紙と一緒に置いてあったバッグにも気づいた事でしょう。

 そのバッグは、先ほどの場所で話していたちょっとしたサポートです。

 中身は一年分の食料と、野菜の種や果物の種を数種類入れてありますので、上手く育ててくださいね。

 一年分の食料と書かれていて痛まないか不安に思ったかもしれませんが、大丈夫です。

 そのバッグに入っているものは時間が停止しており、痛んだり腐る事はありません。

 ファンタジーに詳しければお分かりかと思いますが、そのバッグはいわゆるアイテムボックスと呼ばれるものですね。

 但し、そのバッグの中に入っていた物を取り出すだけになっています。ですので、入れようとしても入らないようになっていますので、バッグから取り出す量には気をつけてください。

 なぜそのようになっているかと言いますと、一人分とはいえ一年分の食料が入り、なおかつ時間停止効果までついたアイテムボックスとなりますと神器アーティファクトクラスになってしまいます。

 それだと流石に優遇しすぎてしまいますので、このような形としました。

 あとはあなたの能力と、このバッグに入っているものをうまく活かして頑張って下さい。

 因みにですが、在庫がゼロになった瞬間、そのバッグは消えてしまいますので、悪しからず。

 あなたの女神より



 手紙を読み終えた俺は、ため息を吐く。

 なぜなら、女神が配慮してくれたことに対して感謝するべきか、恨むべきか判断に迷ったからだ。

 少し悩んだが、今更どうしようもないので、女神がしてくれた事は俺のためだったんだと割り切ることにした。

 仮に町や村の近くに送ってもらったとして、本当に追い出されたりしたら立ち直れないだろうしな。

 それはともかくとして、だ。

 どうやらここは廃村らしい。

 どんな感じの廃村なのか把握するために、見て回ろう。


 立ち上がった俺は手にしていた手紙を折りたたみズボンの後ろポケットにしまい込む。

 と、そこで漸く自分の格好に気が付く。

 俺の格好は、上半身がTシャツの上にポロシャツで、下半身はジーンズにシューズだった。

 この格好は、休日の時に着込む服装だった。

 という事は、俺はこの格好で亡くなったのか?

 もしかしたら、女神が配慮して俺の普段きている格好にしてくれたのかもしれない。

 どちらの理由にせよ、この格好から変わる事はできないのだから、あまり気にする必要はないな。


 自分の服装を確認し終えたところで、改めて廃村を見回ることにした。

 その結果わかった事は、木造の朽ち果てた家が十数軒と朽ちかけていた家が数軒と小さな村だった事がわかった。

 しかも、それ以外に焼け落ちたと思われる家も数軒あった事から、何かしらの事件が起きてやむ得ずに村から出て行くことになった、と見るべきだろう。

 それはともかく、今は寝床の確保することだ。

 朽ちかけていた家の中でも一番状態が良かった家に、女神から送られたバッグを手にして上り込んだ。

 家の大きさはそこそこの広さで2LDKだった。

 但し、床の一部は抜け落ち、残っているところも腐っているか腐りかけているし、壁のあちこちに穴があるので、ずっと住むならば修繕をしないといけないが、今はそんなことをしている暇はないので、このままの状態だ。

 ダイニングにバッグを置くと、外に出る。


 食料はあるからあとは水の確保だ。

 人間は水が無ければ3日で死ぬらしいからな。

 よく災害時に72時間を過ぎると生存率が極端に減るというのは、これが理由だろう。

 なので、水の確保は急務だ。

 この村が打ち捨てられてから何年経っているかわからないが、家の朽ち果て具合からかなりの年月が経っている事は間違いないだろう。

 その為に、どこもかしこも草だらけで道らしい道がない。

 草をかき分けて前に進む。

 すると、村の中央付近でぽっかりと草が生えていないところがあるのに気付く。

 その場所へ近寄ってみると、そこには朽ちかけた井戸が見えた。

 慌てて近寄り、中を覗くと水が見えた。

 そのことに思わず「よっしゃー!」とガッツポーズを取ってしまった。

 が、すぐさま我に返る。


 いやいやいや、待てよ待て。落ち着くんだ俺。

 この井戸の水が飲めるか調べる必要がある。

 その為には、この水を掬わないと。


 井戸の水を掬う為の道具がないか、辺りを見渡す。

 すると、木の桶らしいものを発見してに取ってみると、なんとか形を保っているもののすぐにでも壊れてしまいそうだ。

 まあ、それでも、ないよりはマシだ。

 あとはロープがあればいいんだが、桶にはロープだったものらしい残骸がついていただけで、ロープは見当たらない。

 そうなると、何かをロープの代わりにするしかないんだが、それらしいものはない。

 こうなると仕方ない。

 草でなんとかしよう。

 ズボンやシャツを結びつけてというのも考えたが、代わりの服がないので、井戸に落とした時のことを考えるとできなかった。

 すぐ近くの草を引き抜き、根っこについていた土を払い落とす。

 できれば根っ子は切り落としたいところだが、今は道具がないからなぁ。

 できる限り土を落とすしかない。

 何本か引き抜き土を落とすと、桶に結びつけようとしたがうまくいかない。

 途中で草が千切れてしまうのだ。


 上手くいかないな。

 このままだからいけないのか?

 かといって、どうすればいいのかわからんしなぁ。


 しばらく悩んでいたが、ふとあることを思い出した。


 そういえば、昔田舎のじいちゃんが藁から縄を編んでいたな。

 藁ではないけど、この草でも同じ事ができないかやってみよう。


 改めて草を数本引き抜く。


 えーっと、確かじいちゃんはこうやっていたよな?

 これをこうしてっと。


 まとめた草を、足の裏で挟み草を同じくらいの太さに掴んで分けると、擦り付けるように捻る。

 うろ覚えではあるが、記憶を頼りに編んでいく。

 しかしなかなか上手くいかないが、それでもなんとかやっていくと、不格好ながらも縄らしきものを作り上げる事ができた。

 長さは1m強といったところだが。

 作った縄もどきを桶に結びことに成功し、縄もどきは切れることなく井戸から水を掬う事ができた。

 だが、掬い上げた水は枯葉などが混じった濁った水だった。


 これは、どう見ても飲めそうにもないな。

 もし、この水を飲もうとするなら濾過をする必要があるけど、どうやるんだけ?

 確か、必要なのは小石、砂利、砂、炭、あと布、だっけ?

 これらを筒状のものに敷き詰めるばいいだけど、適当に敷き詰めるんじゃなく順番があったんだよな?

 順番は、下から小石、砂利、布、炭、砂利、砂、であってたか?

 もし間違っっていたら、何度か試してみないとな。

 取り敢えず、必要なものを揃えないと。

 小石と砂利はそこら辺にあるからなんとかなる。

 布は、ここにはないだろうからやむも得ない。服を破いて使おう。

 炭は焼け落ちた家から手に入るな。

 そうなると残りは砂だけだけど、近くにあるのか?

 見つからなければ、砂なしでやるしかないが。


 早速濾過するための材料集めを始める。

 小石や砂利はそこらへんの地面を探せばすぐに手に入るので後回し。

 砂も手に入る場所がわからないので、これも後回し。

 で、炭を手に入れるために焼け落ちた家に向かう。

 焼け落ちた家を見ると、いい具合の隅が何個かあったのでこれを確保する。

 手にモテなかった分は、これから先で使う可能性もあるので、1箇所にまとめておく。

 後は、筒状の物が必要だが、あるかな?


 朽ち果てた家や朽ち果てそうな家を数件回ると、陶器製の瓶を発見。

 しかも、いい感じで底が割れていたので、加工する必要がなくなった。

 後は砂を手に入れるだけなのだが、砂利は見つかっても砂は見つからなかった。

 正確にいえば土混じりの砂らしきものなら発見できたのだが、そこから砂だけを取り出すのは無理と判断したのだ。

 そんな訳で、砂なしの濾過器を作成する。

 まずは、瓶の口から出ない大きさの石を置き、小石、砂利と詰めていく。

 次の布だが、これはTシャツの袖を破いて使った。

 その次に砕いた炭、砂利と詰めていく。

 最後に砂を詰めるところなのだが、残念ながら見つからなかったのでこれで完成とする。

 完成した濾過器に水を入れようとしたところで、ろ過した水を受ける容器がないことに気づいた。

 水を入れる前に気づけてよかった。

 再び、家の中を漁りまわり、水を入れておくのに良さそうな容器を発見できた。

 運良く蓋がされていた小さなかめがあり、中も空だったので丁度よかった。


 さてさて、濾過した水を入れる容器も見つかったことだし、早速やっていこう。

 再び井戸に行き、地面に甕をおいて、濾過器におけから水を注ぐ。

 どうなるかと、ジッと見つめているとピチョンとか目に水が滴り落ちる。

 滴り落ちた水を見るが、この時の量では判断がつかない。

 せめて、濾過器に注いだ水が終わるまでは待とう。

 しばらく待ち、濾過器に注いだ水がなくなったのか、滴る水の量が減ったのを確認したところで甕の中を見る。

 が、よくわからない。

 なので、手のひらに少しだけ垂らして見る。


 おお!

 だいぶ綺麗になっているな。

 砂がなかったからどうなることと思ったが、予想以上に綺麗になっていてよかった。

 けど、まだ匂いが鼻につくな。

 このまま飲むのはやめて、煮沸してからにするか。

 けど、これならなんとか飲み水は確保できそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る