嫌われネクロマンサーになったが、実は万能だった!?

時雨

第1話

 気が付くとそこは真っ白な場所だった。


 どこだろう、と辺りを見回してみるがやはり、白い空間が広がっているだけだった。


 どうすればいいのだろう、と困っているとそこで声が掛かった。


「ようやく気がつきましたか?」


 真正面から声がかかり、そこには白い翼が生えた女性がいた。

 女性は白いワンピースみたいなものを着ており、その為か大きな胸が激しく強調されていた。

 それだけではない。

 金髪で整った顔を持っており、女性ならば誰もが羨むこと間違いない。


 しかし、いつの間に居たんだ?

 全く気付かなかったぞ。

 それに、白い翼の生えた女性か。

 まるで天使か女神みたいだな。

 しかも、その美貌も相成ってまるで美の女神ヴィーナス、と言ってもいいかも。


「ありがとうございます。そこまで褒められると少し恥ずかしいものがありますが」


 目の前の女性は、顔を赤らめてそう言ってきた。

 そういう反応をされると、ちょっとこっちも恥ずかしくなる。

 と、そこでようやく気付く。


 あれ?

 今、声に出していたっけ?


「いえ、声には出していませんよ」


 だよなぁ。声に出していないよな。

 って、今のも声に出していないのになんでわかるんだ!?


「あっ、それはあなたが思っていることを読んでいるからです」


 ……それって、こっちが考えている事がダダ漏れって事なんじゃ?


「まあ、そうなりますね」


 女性は少し困った様子で答えた。


 まじかよ……。

 となると、◯◯◯や◻︎×△な事を考えてもバレバレという事か。


「ええ、そうなりますで、必要なこと以外は勝手にブロックしていますのでご安心を」


 いや、それだけでは安心できないんだけど。

 まあ、そんなことを言い合ってもキリがないか。

 とりあえずそのことは一旦置いといてだ、ここはどこなんだ?

 俺はなんでこんなところにいるんだ?

 それとあんたは誰なんだ?


「そうですね。まずはそこから説明します。私はこの世界の管理者、いわゆる神様というものですね」


 神様ねぇ。

 という事は女性だから女神というわけか。

 そうなるとさっき思っていた美の女神、というのもあながち間違ってはいなかったということか。


 とそこまで考えたところで、目の前にいる女性、いや、女神の顔が少し赤くなっているのに気づく。


「えーっと、それでここですが、彼岸ひがん此岸しがんの狭間です」


 彼岸と此岸?

 此岸ってなんだ?

 彼岸は、あの世のことだっていうのはわかるが。


「わかりやすく言えばこの世ですね。別の言い方をすれば現世です」


 ……ということは、ここはあの世とこの世の境目さかいめ、という認識でいいのか?


「ええ、その認識で間違いありません」


 そうなると、俺は死んだという事か。

 で、地獄行きか天国行きかの判決待ち、というところ?


「惜しいですね。あの世というのは、この世で汚れた魂を洗浄するところなのですが、魂が汚れていると苦痛を味わい、清らかですと気持ちいいと感じるようです。その時のことを覚えていたのか、あの世には地獄と天国があり、地獄は苦しみを与える場所、天国は幸せな場所、というイメージになったようですが、そんなものはありません」


 えっ!?そうなんですか?

 てっきり天国とか地獄があるばかりと思ってた。

 えーっと、そうなると、俺もあの世に行って魂の浄化をすることになるのですか?


「いえ、あなたには二つの選択肢があります」


 選択肢?


「そうです。一つ目はこのままあの世に行き浄化されること。二つ目はこのまま転生する事です」


 転生?

 転生って輪廻転生の事?

 と、いう事は、すぐに現世に生まれ変われる、という事ですか!?


「いえ、違います。そうではありません。貴方には地球以外の世界、異世界に転生してもらいます」


 異世界に?


「そうです。なんでも、その世界はここ数世紀に渡り文化が停滞し、どころか最近では衰退のきざしが見られているようです。そこで、その世界を管理しているものから助けが欲しいと頼まれましてね。で、そこに白羽の矢が立ったのが貴方なのです!」


 目の前の女神はドヤ顔で手のひらをこちらに向けてきたが、俺は特に反応はしなかった。

 というよりもできなかった、というべきだな。

 なんせ、一気にいろんな情報が入ってきたものだから、理解が追いついていなかったのだ。


 えーっと、どこの世界だかわからないけど、そこの世界の文明が衰退の兆しが見えてきて、そこの管理者から助けを求められたから、俺をそこに転生させよう、と?


「ええ、その通りです」


 聞きたいことがいくつかかるんだが、いいか?


「ええ、もちろん。但し、答えられるものならば、ですが」


 ああ、それで構わない。

 まず一つ目だが、そこはどんな世界なんだ?


「剣と魔法、そしてモンスターのいるファンタジーの世界です」


 あー、なるほど。

 よくある設定だな。


「設定とか言わないでください!」


 しかもあれだろ?

 地球、特に日本のサブカルチャーに触れて、それにはまった神、管理者だっけ?が面白がってそういう世界にした、っていうところか。


「よ、よくわかりましたね」


 これもよくあるパターンだからな。

 俗にいうテンプレというやつだ。


「そういえば、その世界の管理者も「テンプレは外せないよな」とか言ってましたね」


 そのセリフでそこの管理者がどんなやつか、大体想像できたわ。


 俺は頭痛を抑えるように額に触れる。


 それじゃあ次に移る。

 なぜ俺なんだ?


「それは、一定の水準を持ったものから無作為に選んだ結果、貴方になりました」


 その水準というのは?


「一定の学力があり、ファンタジー世界に詳しい、もしくは行ってみたいと思っている者、ですね」


 ああ、なるほど。

 それなら俺が引っかかったのも頷けるな。


 なんせ、時間が空いた時にラノベやらスマホでネット小説を読んでいたからな。

 そのお陰で、異世界に対する知識はそれなりにあるつもりだ。


 俺が選ばれた理由はわかった。

 一応聞いておくと、候補者は何人くらいいたんだ?


「しっかりと把握はしていないのですが、確か数万人はいたかと思います」


 そんなにいたのかよ!?

 その中から選ばれたというのはかなり幸運というべきか、不幸というべきか。


「ちなみにですが、貴方に声をかけたのは258人目ですね」


 ……はぁっ!?

 258人目なの、俺!?

 というか258人も声をかけてんのかよ!?


 あまりの数に驚いてしまったが、その数に疑問が出た。


 そんなに声を掛けたのは、なぜなんだ?


「こんなに多くの人に声をかけている理由は簡単です。普通の人が1人2人行ったところでその影響はたかが知れています。そのため、最低でも2桁、できれば3桁は送り込まないと厳しいでしょうね」


 あー、そりゃそうか。

 送られる世界がどれくらいの文明になっているのかはわからないが、少なくとも地球より進んでいる、という事はないだろうし。

 俺の蓄えた知識だと、異世界は中世クラスの文明が多いんだが、多分そのくらいだと思っていたほうがよさそう、か?

 仮にそのくらいの文明だとすると、天動説ではなく地動説だといったところで、頭のおかしい奴、もしくは、異端者として排除されるのが落ち、だな。

 地動説だと証明されたのは、ここ最近だったはずだから、あながち間違ってはいないはず。

 まあ、もしかしたら異世界だから、本当に天動説の可能性もなきしもあらず、かもしれないけどな。

 それはともかくとして、それくらいの文明力だとすると、1人2人送ったところでよほどの功績を残さない限り、大した影響を与える事はできなさそうだ。


「そういう事です。なので、一人一人ができる事は大したことではないでしょうが、それでもチリが積もれば、というやつですね。それに、声をかけた人全員が異世界に転生するわけでもありませんので」


 へぇ、断る人もいたんだ。

 ちなみに、どれくらいが?


「……31人です」


 258人中31人となると、約1割が断っているのか。


「……です」


 えっ?

 今なんて?


「逆です、逆なんですよ!31人からしか承諾を得られていないんです!!」


 えっ!?それだけ!?


「ええ、それだけなんですよ!」


 そ、そう、なんだ。まぁ、なんだ、頑張れ?


「頑張っていますよ!全く予想外もいいところです!最初の内はただ条件を満たした人に声をかけていたのが悪かったのか、きっぱりと断れましたから、途中から異世界へ行きたいと思っている者を中心に声をかけてみれば、自分がいざそうなると尻込みをして断ってきますしね。まあ、それでも、最初のうちに声をかけた人と比べれば、承諾してくださる人の割合は高いですが、それでも思ったほどではありませんでしからね。それで、貴方はどちらですか?引き受けてくださいますか?それとも……」


 美の化身とも思える女神が、無表情でしかもハイライトを失ったまなこで、俺に迫ってきた。

 流石にこれには恐怖を感じ、思わず後ろに下がってしまう。


 怖い怖い怖い!!

 そんな風に迫られたら、とてもじゃないが承諾する気になんかなれんわ!

 絶対に承諾したらやばい、としか思えないっつうの!!


 そう思った途端、女神はハッと我に返り咳払いをする。

 その時少し顔が赤かったが、見なかったことにするべきだろうな。


「すみません。少し取り乱してしまったようです」


 少しという程度では、あっ、いえ、なんでもないです。


 鋭い目つきで睨まれたので考えていたことをやめる。


「もし、異世界に転生してくださるというのでしたら、もちろん特典を差し上げますよ」


 へえ、それはどんな物なんですか?


「それはですね、これを引いてもらいます」


 女神が手を振るうと、そこにはスロットマシーンのようなものが現れた。


「見ていただければわかるかと思いますが、側面についているレバーを引いていただくと、下から今から送る世界で有利となる職業が手に入ります。ただし、引き直す事はできませんので、ご了承ください」


 ガチャかよ!?ソシャゲのガチャかよ!?


 思わずツッコミを入れるが、女神は苦笑いを浮かべるだけであった。


 ったく、よりによってガチャとはな。

 運要素が強すぎるだろうが。というか物欲センサーに引っ掛かってろくな物しか弾けなくなるんじゃないのか?


「そこは安心してください。ガチャのように見えますが、無数あるもののうちから一番あなたに向いたのもが出てくるようになっていますから」


 女神はにこりと笑う。


 ふむ、なるほど。

 それなら一安心だな。

 ちなみにどんなものがあるんだ?


「そうですね。定番?らしいですが、勇者や魔王、がありますね。他にも剣聖や賢者もありますよ」


 勇者はわかるが、魔王もあるのか。

 ほかにも剣聖や賢者って、本当にそこの管理者はある意味でわかっていやがるな。


「ほかにも色々とあるみたいですが、私には詳しいことはわかっていませんので」


 わからない?

 なんでだ?


「このガチャを作ったのは、その世界の管理者ですから」


 あー、なるほど。それなら、詳しくないのも納得だな。

 おっと、そうだ。一応これも聞いておかないと。


「なんでしょうか?」


 ここは重要なことだ。

 崩れてしまっていた口調を改める。


 もし、拒否してあの世に行ったとして、現世、地球に生まれ変われるのですか?

 もし生まれ変われるとしたら何年後になるでしょうか?


「大丈夫ですよ。ちゃんと地球で生まれ変わる事はできます。ただ、何年後になるかは予測できません。少なくとも数百年はかかるでしょうが」


 数百年も……。

 流石に、そこまで未来となるとどんな世界になっているか予想もつかない。

 だったら、異世界にでも行ってみるか。


「本当ですか!?」


 ああ、本当だ。

 というわけで、ガチャを引かせてもらうよ。


「ええ、どうぞ〜」


 女神は、笑顔でガチャマシーンへ手を向ける。

 俺はガチャマシーンの前に立ち、レバーを掴む。

 一度深呼吸をして、レバーを引く。

 すると、ガチャという音と共に下から巻物が出てきた。

 それを女神が掴み俺に差し出してきた。

 俺は、それを掴み開いてみると、そこには【ネクロマンサー】と書かれてあった。


 ネクロマンサー?


「あらら。それを引いてしまったんですか」


 何か問題でもあるのか?


「ええ、まあ。ところでネクロマンサーはどんなものかご存知ですか?」


 あれだろ?死体や死霊を操るやつだろ?


「ええ、その通りですが、貴方が、そういう人を見たらどう思いますか?」


 えっ?ネクロマンサーを見たら?

 そうだな……。少なくても不気味なやつだ、と思うな。


「それだけですか?」


 うん、そんなところだね。


「そうですか。今から行かれる世界ですとネクロマンサーに対して、いい印象を持っていません」


 いい印象を持っていないって、どれくらい?


「そうですね。中世時代の魔女、くらいでしょうか?」


 それって迫害の対象じゃねぇか!!

 最悪殺されるレベルだぞ!!


「いえ、流石にそこまではいきませんよ。そうですね。最悪でも住んでいる場所から追い出されるレベルですよ」


 それでもかなり酷いわ!!


「それくらいの忌職いみしょく、嫌われている職業ですね。ですので、よっぽどのことがない限り自分からネクロマンサーだと名乗るものはほとんどいません」


 マジかよ。

 これじゃあ、ハズレだろ。


「ま、まあ、そう落ち込まないでください。特別にちょっとしたサポートを授けますから」


 サポート?

 それってどんな?


「えーっと、それは向こうについてからのお楽しみ、ということで」


 女神はにっこりと笑みを浮かべる。


 ま、いっか。

 どんなサポートかはわからないが、ないよりはマシだろうしな。


「どうやら納得していただけたようですので、そろそろ向こうの世界に送りたいと思うのですが」


 ああ、わかった。

 いつでもいいぜ。


「では、始めます」


 女神は片手をこちらに向けると、その手のひらから淡い光が溢れてくる。

 その光は俺を包み込むと、唐突に目の前が暗転した。






「ふう。どうやら無事送り込むことに成功したみたいですね。いる場所も狙った通りの場所のようです。あとはさっき言っていたサポートをして終わりですね。しかし、よりによってネクロマンサーですか。彼はハズレと言っていましたが、ハズレどころか、ある意味では大当たりなんですけどね。勇者や魔王に匹敵するほどの。さて、彼はその力をどう扱うんでしょうか。少し気にかけておきましょう」


 女神はそういうと、消え去った。

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