巣への別れ

春風月葉

巣への別れ

 人は同じ場所に停まれない。

 それはきっと前に進んでいないと死んでしまうから。

 魚も泳ぐことを止めると死んでしまうらしいが、きっと人も同じで、行動からしか生きていることの実感を得られないのだろう。

 だからもしも居心地の良い場所を見つけたら自分をその場所に縛りつけるのだ。

 もう自分が何処にも行けないように。

 ありもしない規則や制限を設けて、それらで自分を拘束し、動けなくする。

 そうやってもう離れないぞと自分を安心させようとする。

 でも居場所だっていつまで在るかはわからなくて、気がつくとまた自分を縛るものと一緒になにもかもなくなっている。

 仕方がないからまた足を動かし前へ進む。

 そうして呟く、もう歩き疲れたと。

 歩き疲れて振り向いて、中身がなくなるくらい何度も何度も深い溜め息を吐く。

 なんで自分を置いていなくなったのかとかつての居場所に吐き捨てる。

 その先には何もない。

 仕方がないから前を向く。

 仕方がないから歩き出す。

 きっと今、私は生きている。

 さよなら愛しい居場所。

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巣への別れ 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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