Fly up
安良巻祐介
塑像のように、と、教本には、書いてあった。
殊更にそれを意識したわけではないが、意識して静止していると、肉体から、温度も、呼吸も、消えていくのがわかる。
口をぽっかりと大きく開け、椅子に寄りかかった状態で、ずっと時計の針が回る音だけを、聞いていた。
やがて、ぶうん、と音がして。
――一匹の蠅が飛来した。
目で見ていないけれど、羽音と、空気の震えで、それがわかる。
蠅は、小さな手を細かくさすり合わせながら、迷うように飛んでいたが、前方にある「穴」に気が付いたらしく、急速に方向を定め、そちらに飛び込んでいった。
つまりは、大きく丸く開けた、口の中に。
かかった。
孤独な探索者が飛び込んできたのを知覚した瞬間、これも教本にあった通り、反射的に、上あごと下あごが組み合わさってばくんと閉じた。
そういう機械仕掛けのように。
右腕がぎいぎいと軋みつつ上がり、机の上のメモ帖に、一匹目を示す丸を描く。
捕らえた哀れな探索者の体を分解し、栄養素を吸収しながら、新たな仕事は、どうやら上手くやっていけそうだと、一人ほくそ笑んだ。
Fly up 安良巻祐介 @aramaki88
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