最終話 Meet Again

「奇跡としか…いや、しかし、しばらくは通院して様子をみましょう」


 ナミは歩けるようになった。

 半年も歩いていないのにリハビリの必要も無い。

 感染症も消えている。


 あの夜から2週間後、ナミは退院した。

 しばらくは、この病院に通院しなければならないが…。


「お世話になりました」

「ナミさん、ユキさんは迎えに来ないの?」

「ユキ…さん?」

「そう…あんなに仲良さそうで、まるで恋人…あっゴメンなさい」

 看護婦がナミに気を使ったように口を閉ざした。

 別れたとでも思ったのだろう。


「ユキさん? 誰さん?」


 ナミの両親が病院に近いアパートを借りてくれた。

 ナミも花屋でバイトを決めた。


 専門学校を卒業できないまま入院していた。

 遅れてしまったが通院しながら、大学を受験するつもりでいた。


 諦めていた未来を生きる。

 何となく生きてきた自分を入院してから後悔しない日は無かった。


「なんで、あの人、私の名前知ってたんだろう?」


 アパートの窓から、綺麗な月が見える。

 ナミはカーテンを開けて、月を眺める。


 ナミのアパートが見える丘の上

「もう…事故になんか遭うなよ…ホント、ドジなんだから、ナミは…」


 ユキが月に背を向け歩き出した。

 TickTack…TickTack…

 ナミの腕時計がときを刻む

 TockTock…TockTock…

 私、なんで?…なんで涙が出るんだろう…


「サヨナラ…ナミ…愛しているよ…ずっと」

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その指先で… 桜雪 @sakurayuki

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